コンクリート愛が強すぎる建築家・井上洋介がこだわり抜いた家。コンクリートなのになぜか冷たく見えないその理由は…
コンクリート打ち放しのクールな建物には凛とした美しさがありますが、正直なところ冷たい印象も拭えないもの。ところが、建築家の井上洋介さんが手掛けた家はひと味違います。型枠の工夫を重ねて実現した住まいは、もう何年も前からそこにあるように街並みに溶け込んでいます。 【写真集】建築家・井上洋介さんが手掛けたコンクリートの美しさが際立つ家 まるで生地のようなざっくりとした風合いの内外の壁。コンクリートがこれほど豊かな表情をもてるなんて!その家づくりのエピソードと共に、素材感あふれる魅力的な住まいをご紹介します。
街並みに溶け込むコンクリートの家
静かな住宅街の角地に立つ住まいは、建て主が新たに土地を購入して新築したもの。コンクリートの表現にさまざまな工夫を重ねている建築家の井上洋介さんに興味をもち、設計を依頼。 建物は角地という立地と、道路のラインに対して方位が振れているということから、変則的な六角形が選ばれました。ご夫妻だけの住まいなので、延床約130㎡の内部空間は横にも縦にもつなげられ、大きくゆったりと広がります。
コンクリートの自然な美しさを引き出す
コンクリート打ち放しの壁といえば滑らかな美しさが評価されます。また、経年による黒ずみやひび割れを避けるため、表面をコーティングすることも日常的に行われること。しかし、 井上さんのコンクリートに対する向き合い方は違っていました。 「日本の気候風土ではどんなにきれいに仕上げても汚れてきます。いかにきれいに仕上げるかではなく、型枠を組んでコンクリートを流すという工程のなかから、自然な美しさを引き出す方法があるのではないかと思っているんです」 背景にあるのは、経年後もなお魅力を増していくモダニズム以前の建物が共通してもっているものを探り、今の建築に生かしたいという思い。 「そこにあるのは、陰影や人の作為が及ばない自然な風合いや、建築に携わった一人ひとりの職人の手の跡だと思います。それらがひとつになって時間を経ても変わらない価値を生み出している。コンクリートでもできるのではないかと思いました」と井上さん。