コンクリート愛が強すぎる建築家・井上洋介がこだわり抜いた家。コンクリートなのになぜか冷たく見えないその理由は…
作為的でない表情の出し方を工夫
コンクリートに表情を付ける方法として、型枠にスギ板を使って木目を転写するという手法があります。しかし井上さんが採用したのは、それとは似て非なるものでした。 「従来の杉板型枠は、あらかじめ木目を浮き立たせるような処理を施したり、目地が外側に現れる“ 出目地”にする場合は、板が接するところに溝をつくります。つまり人工的な作業でつくられるものです」 そういう作為は避けたいと、井上さんは建て主も交え基礎工事が進む現場の横でさまざまなモックアップ(原寸模型)をつくりながら試行錯誤を重ねました。
ホームセンターで型枠の素材を調達
「型枠のコストを下げたいという意図もあり、 ホームセンターで安く手に入るスギの貫板や屋根の下地に使う瓦桟を使うことにしました。厚みも幅も変えて6種類を用意。目地幅もゼロから7ミリまで4種類をランダムに組み合わせながら型枠をつくりました」と井上さん。 型枠を外すと、想像をはるかに超えた表情をもつコンクリートが出現。場所ごとに凹凸が異なり、出目地は、幅はもちろん、途中から取れてしまったものなどさまざまでバリの跡も違っています。人間がつくろうと意図してもつくれるものではありませんでした。 室内の壁にも外壁と同じ手法を使いました。コンクリート表面の自然な凹凸が、光を受けて微妙な陰影をつくり、コンクリート独特の冷たく硬い印象はどこにもありません。さらに砂漆喰の壁を織り交ぜ、木を使いました。 3つの素材のバランスは絶妙で、自然の素材だけが重層してつくる室内は、穏やかな光とやわらかな空気で満たされています。井上さんとともにこの静謐な空間をつくりあげた建て主夫妻。お気に入りのテーブルランプをともし、植物を置き、さらに重みのある背景とともに室内を彩るアートを選んで、豊かな時間を過ごしています。