「恋愛で失敗する人」によくある発想の「大きな間違い」
わたしたちはいつまで金銭や時間など限りある「価値」を奪い合うのか。ベストセラー『世界は経営でできている』では、気鋭の経営学者が人生にころがる「経営の失敗」をユーモラスに語ります。 【写真】人生で「成功する人」と「失敗する人」の大きな違い ※本記事は岩尾俊兵『世界は経営でできている』から抜粋・編集したものです。
恋愛胸算用:マッチングとクリエイティブの恋愛論
相手が浮気な人でない場合に相手が自分を選ぶ確率=一÷相手に言い寄ってくる人の数と仮定しよう。激レア普通人材は普通人材と見せかけて競争率も高いため、そうした相手と恋愛関係になれる確率は相当低いわけだ。 もちろん数学に強い方は直感的にこの事実に気が付いておられただろう。肝心なのは、問題を提示するだけでなくこの問題にどう対処するかを示すことである。そしてこの問題を解決する方法は確実にある。 それは有限の恋愛対象を奪い合うのではなく無限に恋愛対象を創り出すことだ。 具体的には、第一に恋愛をあくまでマッチングだと捉えた上での対処法がありうる。第二にそもそもマッチングとしての恋愛からクリエイティブとしての恋愛に脱皮する対処法もある。 最初の方法について。すでに確認した通り、恋愛の初期にさまざまなこだわり要素で相手をふるいにかけていく場合、こだわり要素の数が増えるごとに恋愛対象者は劇的に少なくなる。恋愛対象者は二のN乗人(N=こだわり要素数)に一人しかいないためだ。しかし、このことは逆に言えば「誰もがこだわるような要素を気にしなければ一挙に競争率が下がる」ということをも示している。 そこで「恋愛において、自分が相手に絶対に妥協できない要素を挙げたら、その代わりに、誰もがドン引きするようなダメ要素を同じ数だけ受け入れる」という簡便な解決法がありうる。 なんてことはない。美男美女で、性格がよくて、浮気をしないという要素を挙げるなら、元気なのに全然働かず、百貫デブで、足が生物兵器レベルで臭いくらいは受け入れるべきだということだ。 どうしても百貫デブが嫌ならば、「会話の中身が最近視たユーチューバーに対する悪口だけで九割五分を占める」などの欠点は受け入れるべきだろう。これは相当な欠陥だから、競争率は劇的に下がること間違いなしである。 次に、こうしたマッチングとしての恋愛から脱却する方法として「気が合う人を最良の恋人だと思い込む」という手がある。 すなわち、理想の人がいないと嘆くのではなく、自分の行動と思考を変えることで相手との理想的な相互作用を生み出していくのである。他人と過去は変えられないが自分と未来は変えられる、という発想だ。 たとえば、今の相手へのときめきを感じられないと思うのならば、文字通り吊り橋を一緒にわたってみて、セルフ吊り橋効果を求める手もある。あるいは旅行先で歴史上の人物になりきるなど、普段とは違った関係性を体験できるデートプランを立ててみてもよい。 いずれにしても、「相手そのもの」を変えるのではなく、「自分と相手の相互作用」を変えるような手を打っていくことが大事である。こうして、相手を理想の恋人だと思い込むことで、奪い合いの恋愛から脱却できるわけだ(とはいえ、後述するように、あくまで自分主体で恋愛経営すべきであり、ダメ人間に搾取されないよう気をつける必要がある)。 我々は恋愛においてしばしば「奪う」という表現を使う。恋人を奪う、心を奪う、唇を奪う、略奪愛……といった具合である。 奪うという発想に陥りがちであるからこそ、好きな人の目を奪おうと挑発的な格好をしたり、好きでもない人とじゃれている様子を見せつけてやきもちを妬かせようとしたりする。あるいは好きな人の時間を少しでも奪おうと必死になり、恋人でもないのに相手を束縛して嫌われてしまったりもするだろう。 世の中にごくわずかしかいない理想の相手を探してその相手を数多のライバルから奪い取るという発想では、確率的にいってもほとんど負けが決まっている。 我々は理想の相手の存在確率および自分との恋愛成就確率を高く見積もりすぎる。 つづく「老後の人生を「成功する人」と「失敗する人」の意外な違い」では、なぜ定年後の人生で「大きな差」が出てしまうのか、なぜ老後の人生を幸せに過ごすには「経営思考」が必要なのか、深く掘り下げる。
岩尾 俊兵(慶應義塾大学商学部准教授)