なぜ神戸は3点差大逆転劇を実現できたのか?
徳島ヴォルティスとの第2節の後半終了間際にJ1初ゴールをねじ込み、敵地でのドローを手繰り寄せた24歳のDF菊池流帆は、川崎との前節でも後半アディショナルタイム10分に同点ゴールをゲット。王者の開幕からの連勝を「5」で阻止するヒーローになって雄叫びをあげた。 2点のリードを追いつかれたFC東京との第3節では、菊池とともに10年前の東日本大震災で被災した郷家が後半終了間際に決勝ゴールを叩き込んだ。そして札幌戦も劇的なフィナーレを迎えた。 再び前川が供給したロングフィードを胸でトラップした中坂が、振り向きざまに前方へスルーパスを通す。走り込んだ佐々木がドリブルでペナルティーエリア内まで侵入し、直後にマイナスの方向へボールを折り返す。ゴール左隅へワンタッチで決勝ゴールを突き刺した山口が声を弾ませた。 「ウチからキョウゴ(古橋)とダイヤ(前川)が代表に行くので、負け試合よりもしっかりと勝って送り出したかったので、その意味では逆転ゴールを決められて嬉しかったです」 精根尽き果てて、後半32分にベンチへ下がっていた古橋が笑顔を弾けさせた。逆転した直後に足をつらせた佐々木はプレー続行が不可能となり、勝利を託してピッチを後にした。 イニエスタが長期離脱を余儀なくされ、オフの補強の目玉だったU-20ブラジル代表FWリンコン、開幕直後に加入が決まったケニア代表FWアユブ・マシカも、新型コロナウイルス禍に伴う外国人の新規入国停止が続く状況下で、合流どころかいまだに来日すら果たせていない。 前評判が芳しくなかった神戸を、札幌戦で言えば山口や古橋らの主軸が、そして中坂や佐々木らの生え抜きの若手がチームコンセプトを実践し、さらに熱い気持ちを何重にも上乗せして奇跡の大逆転勝利をゲット。暫定で5位につける状況に、三浦監督も手応えを感じている。 「そういう気持ちは最低限、試合に臨む以上は絶対にもたなければいけない部分だと思っている」 サンフレッチェ広島、そして浦和レッズ時代から勝っても負けても饒舌だった札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、神戸戦後は憔悴しきった表情を浮かべながら言葉少なだった。 「3-0でリードしているチームが逆転で負けてしまうのは、プロのチームとしてあってはならないこと。私たちの戦い方のベースである運動量と球際の強さを維持できなければ、今日のような展開になってしまう。監督としても責任を感じないといけない」 3点差を逆転したJ1リーグ史上の9試合で、実は直近の3試合すべてでペトロヴィッチ監督が絡んでいる。広島を率いた2011年9月には後半だけで5ゴールを奪われてセレッソに屈し、浦和を率いた2013年8月には前半20分までに大分トリニータに奪われた3ゴールをはね返した。 攻撃的なスタイルを美学として貫く63歳の指揮官は、一方でメンバーを固定して戦う傾向が強い。浦和との前節から中2日で臨んだ神戸戦も引き続き10人を先発させ、疲労が色濃くなり、集中力を欠きはじめたとベンチで感じながらも、交代枠を2つ残して試合終了を迎えた。 神戸に脈打つ主力不在の穴を補ってあまりある熱き鼓動と、ツボにはまったときの強さに脆さも同居させる札幌。両監督の采配を含めて、さまざまな要因に導かれた大逆転劇だった。 (文責・藤江直人/スポーツライター)