なぜ神戸は3点差大逆転劇を実現できたのか?
4分後にも中坂が攻撃のスイッチを入れた。左タッチライン際でボールをもった、U-24日本代表に選出されたDF田中駿太に激しくプレスをかけ、キーパーへのバックパスを誘発した。実際に田中がバックパスを放つ刹那に一気に加速して、ボールに追いついたのが古橋だった。 「狙っていました。その直前にビッグチャンスを外していたので、何がなんでも決めたかった」 たまらず飛び出してきた身長2mの大型キーパー、ルーキーの中野小次郎(法政大卒)をかわし、体勢を崩しながらも無人のゴールにボールを流し込んだ古橋は、10分後の後半22分には同点に追いつくPKを決めている。昨シーズンまでPKキッカーを担ってきた、キャプテンのMFアンドレス・イニエスタを開幕からけがで欠く状況で、古橋はある誓いを胸中に秘めて開幕に臨んでいた。 「チームがPKを獲得したら、自分が蹴りにいくと決めていました。あの場面では蛍さん(山口)からも『蹴れ』と言ってもらったので」 PKを獲得するまでの流れを振り返れば、外すわけにはいかなかった。自身とともに日本代表に選出された守護神・前川黛也が右サイドへ供給したロングフィードを、23歳のDF山川哲史が空中戦で相手に競り勝って前方へ落とし、24歳のFW増山朝陽が絶妙のクロスを放った。 ペナルティーエリア内へ猛然と走り込み、中野に倒されたのは先制点となるPKを献上し、汚名返上に燃えていたアカデミー出身の21歳のMF佐々木大樹。チームメイトたちの思いに自らの決意も込めたPKは、左へ跳んだ中野の逆を突いてほぼ真ん中のコースを撃ち抜いた。 2本に対して11本とシュート数で大きく後塵を拝し、2失点で済んだと形容してもいい内容だった前半を、山口は「自分たちでリズムを悪くしてしまった」と悔しそうに振り返る。 「前からプレスにいくことを心がけていたけど、相手に上手く剥がされ、押し込まれる展開が長くなってしまった。自分たちがボールをもってもあまりにも慌てすぎて、失うことが多かった」 藤本、増山、佐々木、そしてDF小林友希が、そろって今シーズン2度目の先発だった状況も関係したのか。連携面において攻守ともにチグハグさが目立った、前半から後半の立ち上がりにかけての神戸を、山口は「昨シーズンまでだったら確実に負けていた流れだった」とこう続ける。 「今日のような試合になったときに、去年ならチーム全体として気持ちの部分が落ちてしまうことがあった。まだ序盤ですけど、今年はあきらめない姿勢を出せているし、それが得点にもつながっている。得点の形にしても気持ちの入ったゴールが多いのが、去年までと違うところだと思う」