逮捕されるかどうかは「運次第」…1円でも賭けたら「一発アウト」なのに、なぜあなたは捕まらないのか
クローン人間はNG? 私の命、売れますか? あなたは飼い犬より自由? 価値観が移り変わる激動の時代だからこそ、いま、私たちの「当たり前」を根本から問い直すことが求められています。 【写真】逮捕されるかどうかは運次第? 1円でも賭けたら「一発アウト」なのに… 法哲学者・住吉雅美さんが、常識を揺さぶる「答えのない問い」について、ユーモアを交えながら考えます。 ※本記事は住吉雅美『あぶない法哲学』(講談社現代新書)から抜粋・編集したものです。
なぜ「賭け麻雀」は違法なのか?
「スピード守って走ってる人なんてほとんどいないんだから、(時速)10km以内と決められてる方がおかしい。麻雀も同じ。賭けてない人なんていないのに」。自身、賭け麻雀で摘発されたことがある某漫画家の名(?)言である。 まず法定速度(高速では10km、一般道では時速60km)については、日本では下手くそなドライバーを基準にして警察庁が決めて政令として施行されている。政令だから、交通事情が全然違う都道府県すべてが、これを一律に守らねばならない。 形式的には、ほとんど人もおらず自動車も走っていないような北海道の過疎地の道路でさえこれを守って走らねばならないのだが、それはたしかに現実的ではないだろう。キタキツネに笑われる。 そして一般人が賭け麻雀をすることが法律上犯罪とされている件。一般人が金銭を賭けて麻雀をすることは犯罪とされている。根拠は刑法185条「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまる時は、この限りでない」。 しかし、この条文の後半を見ると、常習でなく、たまたま友人同士で誰かの自宅で盛り上がって5000円程度を賭けて麻雀をするくらいなら大丈夫のように思われる。ところが、大正時代の大審院(いまの最高裁判所)判決がまだ生きていて、「金銭はその性質上、一時的な娯楽に供する物とはいえない」と解されているため、たとえ1円でも賭けたら違法となるのである。
逮捕されるか否かは「運次第」
でも、大人がスナック菓子一袋を賭けて麻雀して楽しいだろうか? じつは某漫画家のいうように、法律では犯罪とされているが、「賭けてない人」はほとんどいないのである。 たまにスポーツ選手や有名人が摘発されるが、同じことをして摘発・逮捕される人とされない人が出るのはなぜか? 刑事訴訟法には「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としない時は、公訴を提起しないことができる」という条文もあるため、賭け麻雀をした人すべてが捜査され逮捕されるわけではなく、警察や検察の裁量によるのである(専門家によると1000点200円以上、1時間で3万円程度の賭け金が動くような賭け麻雀は摘発されるというが、それ以下でも法律上は違法なのである)。 つまり法律が、逮捕されるもされないも運次第、と決めているのだ。 さらに連載記事<あまりに理不尽…「働いたことがない無職の中年男性」が「元妻からもらったお金」で買った宝くじで当たった「300億円」のゆくえ>では、私たちの常識を揺さぶる「問いかけ」から法哲学の面白さ楽しく解説しています。ぜひご覧ください。
住吉 雅美