58歳女性、シングルで海外在住、帰国するならいつ?老後はお先真っ暗、国民年金はずっと払っているけど……
◆老後の見通しはかなり暗い あるのは、わずかな父の遺産だけです。分割せずに、父の後添えと妹と計3人の共有財産にしています。実家の建物を維持補修したり、3人の誰かに何かがあった時のために備えたり。「遺産で争うなんてイヤ。幸い、争わない間柄だった」。姉妹とも、遺産分割に口を挟む配偶者がいなかったおかげで、相続が「争族」にならずに済みました。二人とも独身でかえって良かったかもと思います。ただし、実家があっても老後の見通しはかなり暗い、と史子さんは言います。 「実家と年金だけじゃ十分じゃないのは確実。体を壊さずに働き続けることだけが生きる術だけど、でも高齢者が働ける機会が日本にあるのかどうかも不安。特に私はフリーランスだから、かなりお先真っ暗」 日本に帰国しても大変そうなら、永住ビザもあることですし、今の国で老後を過ごす選択肢はないのでしょうか。「こっちで高齢者施設に入っている日本人の知り合いがいて、一度、見に行ったんだけど、……あれは嫌だと思った」。日本の施設との違いを感じました。「こっちの人は基本的に、他者への思いやりが日本人よりも薄い。そういう文化なので仕方ないんだけど、なんというか、入居者の扱いが手荒い」。ケアの仕方が、欧州では、日本ほど細やかではないそうです。 「私、仕事は好きなのよ。もちろん作品を作るのも好きだけど。楽しいから働いてるんだ、って最近、気付いたの。だから、大変だけど、いいの、働けるうちは働くの。日本に帰るのは、教師の仕事をクビになってから。いよいよ働けなくなったら、帰国を考えるわ」。まずは猫たちもいることだし、と史子さんは苦笑しました。 ******************
◆若い頃はそれでも良かった 子どもの頃、将来何になりたいかを無邪気に夢見ていた時には、アーティストは老後に苦労する、なんて知らなかったものです。30代、40代でも、老後のことを考えるアーティストは少数派ではないでしょうか。現役ばりばり、成長期ですから、まずは作品。アーティストだけでなく、役者やミュージシャン、作家など芸術関連の仕事をしている人はみな、同様でしょう。史子さんと同じように、40代までは仕事だけに集中し、老後のことなんて考えもしなかったのではないでしょうか。 若い頃はそれでも良かったのです。バイトや非正規労働で生活費を賄えました。アート活動と生活を両立できました。でも老後が近付いてくると、現実が見えてきます。フリーランスですから、会社員のような退職金もなければ、厚生年金もありません。国民年金がもらえるとしても、実家があったとしても、老後の家計はかなり厳しいでしょう。 となると、「老後」や「リタイア」なんていつのこと。ずっと現役で働き続けることが、最大の生活防衛策になります。働けるうちは働いて収入を得ないと、高齢になった後に生き抜けません。 つくづく、アーティストもミュージシャンも俳優も、芸術家はなんて大変な仕事なのかと思います。経済的に成り立つのは一握り。その他の多くの人たちは、実家が大金持ちでもない限り、厳しい老後が待っています。何歳まででも、働ける限りは働かないといけない老後だなんて。遊び暮らしてきたわけでもないのに、厳しい人生です。 史子さんの場合、良かったのは、国民年金をちゃんと掛けてきたことです。生活が苦しい中、つい国民年金を払わない芸術家の卵たちも多いに違いありません。たかが数万円、されど数万円。十分な額でないとしても、基礎収入として計算できる国民年金があるかどうかは、老後の生活設計に大きく影響するでしょうから。
元沢賀南子