58歳女性、シングルで海外在住、帰国するならいつ?老後はお先真っ暗、国民年金はずっと払っているけど……
◆アーティストには助成金や補助がある 史子さんが初めて欧州に滞在したのは2000年代初頭。1年間留学して、いったん帰国。数年は日本で過ごしましたが、一匹オオカミな史子さん。日本にうまくなじめず、再び欧州へ。以来、今の国で暮らしています。 アートへの理解とリスペクトが日本よりずっと高い欧州では、国籍に関係なく、アーティストには助成金や補助があります。例えば史子さんのいる国では、アトリエを公的機関がアーティストに提供していて、史子さんは、自宅の他にアトリエも借りています。公的な運営のため、収入の少ないアーティストの家賃は低く、売れているアーティストは倍以上のアトリエ代を払う仕組みだそう。 「来た当初、こっちは社会保障が手厚いなあ、と思った」と史子さん。公営住宅だけでなく、国による住宅手当もあります。年齢に関係なく誰でも申請できて、一律で家賃補助が受けられます。史子さんの友人の実例では、家賃270ユーロ(約4万6000円)の部屋に対して、家賃手当は月20~30ユーロ(約3300~5000円)とのこと。金額が微々たるものとはいえ、補助はありがたいです。 日本と違って、社会保障は産業別です。史子さんは当初、芸術家向けの社会保険に入っていました。当地の公的年金にも加入しています。日本同様、納付額は年収によりますが、受給資格は日本より短く、5年以上納付したら必ずもらえるそう。日本同様、年金の受給開始年齢は延びており、いまの年金受給開始年齢は67歳。先日、調べたところ、史子さんも9年後から受け取れると分かりました。 ただ、今の国で、将来史子さんがもらえる年金は月に1万5000円程度。日本の国民年金は少ないと言われますが、それでも6万円超ですから、4倍以上です。「日本の年金も全然あてにならないみたいだけど、将来、こっちで暮らすのは考えられないかなあ」
◆当地で働けるうちは働くほうが現実的 実は史子さん、日本の国民年金に、20歳で加入して以来ずっと入っています。海外にいる間も、保険料を納付し続けてきました。国民年金は、海外在住者も任意加入で続けられます。納付した分は、もちろん老後に年金として受給でき、海外送金もしてもらえます。 史子さんはよく分からなくて、日本と当地と二重に、公的年金の保険料を納付しています。本当は免除制度もあるようですし、両国間で年金の相互支給制度があるとも聞きました。でも相談する人もおらず、史子さんは自分の公的年金について、よく分かっていません。 いっぽう、権利として、史子さんは当地に住み続けることができます。数年前に、自力で永住ビザ(無期限滞在許可)を取ったからです。現地人の恋人がいた時期もありますが、結婚はしませんでした。配偶者ビザではないアジア系の女性永住者は珍しいそうです。「こっちで一人で生きているアジア系女性って、自分のほかに見たことないかも。みんなパートナーがいるね。欧米女性だと、シングルで母国以外の国で働いている人も多いけど」 アーティストとしての収入だけでは厳しいので、史子さんは日本語教師の仕事もしています。「教師の仕事を頑張って、生活費を稼げるうちは稼ぐしかない」。幸い、日本語教師の仕事は公的機関からの業務委託です。定年もなく、コマ数を急激に減らされることもなさそうなので、あと10年くらいは教師を続けるつもりです。逆に、いま日本に帰国しても、今さら派遣社員などで働くのも難しいでしょう。ならば当地で働けるうちは働くほうが現実的です。 それに、今は日本には帰れません。12歳になる猫2匹と暮らしているからです。子猫の時から育ててきました。彼らが生きている間は、面倒を見るつもりです。あと何年かは分かりませんが、20歳を超えて生きる長寿猫もいます。「この子たちがいる間は帰国できないなあ」