「インバウンドだけ課税しろ」 “宿泊税”の使い道に不満噴出! 観光振興はそもそも誰のためなのか?
全国で進む宿泊税導入の波
インバウンドの増加にともない、注目を集めているのが「宿泊税」だ。宿泊税とは、宿泊した際にかかる税金だ。宿泊者がその料金に応じて支払い、宿泊施設の運営者が集めて自治体に納める仕組みになっている。主に観光地や観光業が盛んな地域で導入され、観光客による地域の負担を軽くするための財源として使われている。 【画像】「なんとぉぉぉぉ!」これが京都駅烏丸口の「大行列」です! 画像で見る(13枚) 12月11日、北海道札幌市は市議会で宿泊税の条例案を可決した。この条例案では、ひとり1泊あたり、宿泊料が5万円未満の場合は200円、5万円以上の場合は500円を徴収することになり、年間約27億5000万円の税収を見込んでいる。 宿泊税は、2002(平成14)年に東京都が初めて導入したのを皮切りに、 ・大阪府:2017年 ・京都市:2018年 ・福岡市:2020年 ・長崎市:2023年 など、全国各地で導入が進んでいる。いずれも宿泊費に応じて税率が決まる。 しかし、宿泊税には反対の声も多い。税金が宿泊料金に転嫁されることで、中小の宿泊事業者が競争に負けるのではないかという懸念や、外国人・日本人を問わず、仕事で出張した場合でも税金を徴収されることへの不満が挙げられている。また、SNSでは 「何でもかんでも国民から税金を取るな」 「インバウンドだけ課税すればいい」 といった批判的な意見も目立つ。 宿泊税を導入する理由として、一般的にはオーバーツーリズム(観光公害)対策が挙げられることが多い。しかし、自治体が宿泊税を導入する本質的な目的は、観光振興にある。観光地としての魅力向上や受け入れ環境の整備など、地域の観光施策全体を支える安定的な財源を確保することが求められているのだ。
観光立国の財源確保戦略
宿泊税導入が進む背景には、2023年3月に閣議決定された「観光立国推進基本計画」がある。この計画では、ポストコロナ時代を見据えて、従来の「人数重視」の方針を見直し、ひとり当たりの旅行消費額を増やすことを重視する方針が打ち出された。 観光政策の転換を実現するためには、自治体における安定した財源確保が必要不可欠だ。しかし、従来の税収や交付金だけでは、観光振興に必要な予算を確保するのは難しい。そのため、全国の自治体は観光客の宿泊を対象にした新たな財源、宿泊税に注目した。 自治体の税収は主に固定資産税と住民税で構成されているが、これらだけでは十分な税収を得られない市町村が多い。そのため、国が地方交付税交付金として不足分を補っている。 この交付金は人口規模を基に算出されており、住民の行政サービスを支えるためのものだ。観光客が増えても交付金が増えるわけではなく、観光振興で住民の所得が増加すれば住民税収入も増える可能性があるが、多くの自治体は人口減少に直面している。 こうした状況を考慮すると、観光振興のための独自財源を確保することが重要となる。求められるのは以下のふたつの要件を満たす新たな税制だ。 ・観光振興専用の財源であること。既存の税収は住民サービスに充てられるため、観光振興専用の安定した財源が必要。 ・観光振興の成果を地域の財源として取り込む仕組みであること。観光客の増加や消費拡大を自治体の新たな収入として確実に反映できる制度が求められる。 これらの要件を満たす手段として、宿泊税が多くの自治体にとって有力な選択肢となっている。