「インバウンドだけ課税しろ」 “宿泊税”の使い道に不満噴出! 観光振興はそもそも誰のためなのか?
観光振興と税収使途のジレンマ
宿泊税に関する地域全体への便益を重視する考え方に対して、税制の専門家から異論も出ている。神奈川大学の青木宗明教授は、専門誌『税』2024年11月号の論文「宿泊税・訪問税の正しい理論:課税根拠は「原因者課税」」で、宿泊税の本質について異なる見解を示している。 青木教授によれば、宿泊税を観光振興目的の税として正当化することには問題があるという。ビジネス客や地域住民が宿泊する場合、観光関連サービスからの利益は見込めず、行政サービスの利益を測ることも難しいため、観光客が観光サービスから受ける利益に基づく「応益課税」の論理は成り立たないと指摘している。 代わりに、宿泊税を「原因者課税」として捉えるべきだと主張する。来訪者(原因者)が地域に追加的な財政需要を生むため、その財源を確保するために課税するべきであり、税収の使途は観光目的に限定せず、普通税として扱うべきだと述べている。 具体的には、宿泊客が地域を訪れることで発生する行政コスト(ゴミ処理、治安維持、インフラ維持など)に対応するため、その原因を作り出している宿泊客から徴収するという考え方だ。このように考えれば、税収の使い道を観光振興に限定する必要はなく、地域全体の行政サービスに広く活用できることになる。 江﨑氏の主張は、宿泊税の運用における議論で明確であり、観光地としての価値向上につながる公共的な投資の財源として宿泊税を位置づけ、使途を明確にし、透明性の高いガバナンス体制で運用するという考え方は、観光地経営の観点から説得力を持つ。特に地域のブランド価値向上や公共交通の整備など、観光客だけでなく地域全体に便益をもたらす事業への投資は、持続可能な観光地づくりにおいて重要である。 一方で、青木教授が指摘するように、出張や地域住民の宿泊に対して観光振興目的で課税を正当化するのは難しく、むしろ来訪者による行政の財政需要増加に対応するための「原因者課税」として捉えるべきという主張には、税制度としての論理的な妥当性がある。 青木教授の主張は、宿泊税を巡る現実の課題に触れており、観光振興に限定することで税の正当性が損なわれるという逆説的な状況を生んでいることがわかる。観光に関係ない出張者からの徴収が正当化できない一方で、地域住民が求める基礎的な行政サービスへの支出が難しくなっている。このことは、 「宿泊税のあり方を根本的に見直す必要がある」 ことを示唆している。したがって、宿泊税は、具体的な運用実績を積み重ねながら、最適な使途を模索していく必要がある。