「インバウンドだけ課税しろ」 “宿泊税”の使い道に不満噴出! 観光振興はそもそも誰のためなのか?
宿泊税負担と受益の格差
参考となるのが、最初に宿泊税を導入した東京都の状況だ。 大東文化大学の塚本正文教授は「宿泊税の制度と課題:東京都の観光政策を事例として」(『大東文化大学紀要<社会科学編>』第62号)で、2023年度の宿泊税収から充当された観光産業対策予算263億6400万円の各施策が、誰にどのような効果をもたらすかを検証し、負担と受益の割合を明らかにしている。 その結果、宿泊税の負担者層と受益者層は次のようになった。 ●外国人宿泊観光者 ・税負担者:23.5% ・政策受益者:44% ●道府県在住宿泊観光者 ・税負担者:54.1% ・政策受益者:15% ●都内在住宿泊観光者 ・税負担者:22.4% ・政策受益者:14% 塚本教授の分析が示す最も重要な問題は、税負担と受益の不均衡だ。特に注目すべきは、インバウンドは全体の税負担の23.5%しか負担していないにもかかわらず、政策からの受益は44%に達していることだ。 一方、道府県在住の宿泊客は税負担が54.1%を占めるが、受益は15%にとどまっている。このように、インバウンド観光に重点を置いた施策が、税負担と受益の間に大きな格差を生んでいるのだ。
観光振興税の限界と再定義
これを踏まえて、塚本教授は次のように提言している。 「もし、宿泊税率や税収が増え、理解を得るために受益と負担の一致を目指すのであれば、負担者が受益者と一致するよう、道府県在住の宿泊者に恩恵のある政策にも配慮すべきである」 その具体的な施策として、宿泊税を 「消防・救急サービスに活用する」 ことが挙げられている。これにより、安心して観光できるまちとしての魅力が高まり、日本人や都内住民にも恩恵があると指摘している。 塚本教授の分析が示すのは、観光振興のための目的税としての宿泊税の限界である。現在の運用は、インバウンドに偏り、受益と負担の不均衡を生んでいる。これは、観光振興が地域を活性化するという、いわば 「風が吹けば桶屋が儲かる」 ような論理では、もはや税の正当性を説明できなくなることを意味している。宿泊税は観光振興のための財源ではなく、 「地域全体の公共サービスを支える新たな財源」 として再定義する必要がある。そうしなければ、観光客、特にインバウンドに対する反感がますます高まるだろう。
キャリコット美由紀(観光経済ライター)