「インバウンドだけ課税しろ」 “宿泊税”の使い道に不満噴出! 観光振興はそもそも誰のためなのか?
宿泊税導入の広がりと課題
宿泊税の導入は、2001(平成13)年の地方分権一括法や2004年の税制改革により地方税の課税自主権が拡大したことがきっかけとなっている。この改革で、法定外目的税の導入が容易になり、全国の自治体で新たな財源として宿泊税の導入が検討されるようになった。最初に宿泊税を導入したのは東京都で、東京都はこれを 「国際都市東京の魅力を高めるとともに、観光振興のための事業経費」 と位置づけ、2002年10月から施行した。 宿泊税は観光振興を目的としており、その収益は観光関連事業者の経営支援や、国内外へのプロモーション活動の費用に充てられている。 その後、2016年に大阪市、2017年には京都市が宿泊税の導入を決定し、全国で導入する自治体が増えている。2023年に日本交通公社が行った調査によると、都道府県の22.5%、市町村の38.8%が観光財源の確保に向けた検討を進めている。 一方で、宿泊税の導入には課題や批判も多い。特に、観光目的ではない出張者からも税金が徴収される点について、ビジネス利用者からは不満の声が上がっている。また、 「税収の使い道」 に関しても問題提起がされており、地域住民のなかには 「なぜ観光振興なのか」 という疑問を抱く声が強い。人口減少や高齢化が進むなかで、医療や福祉サービスの充実、教育環境の整備、防災・インフラ強化など、住民の生活に直結する行政サービスを優先すべきだという意見が根強く存在している。
観光振興策の財政活用法
宿泊税に対する不満は主にふたつある。ひとつは、たとえ数百円の税額であっても、新たな負担を強いられることへの「抵抗感」。もうひとつは、その税収が観光関連産業にのみ恩恵をもたらし、一般住民には直接的な利益が少ないという「不公平感」だ。 『観光文化』261号に掲載された、日本交通公社の主任研究員である江﨑貴昭氏の論文「宿泊税「活用」のプロセス論」では、この問題に関する興味深い事例が紹介されている。江﨑氏によると、宿泊税が古くから導入されている欧米では、一部の地域ですでに税収が一般財源として活用されているという。その理由は次の通りだ。 「その理由としては、当初、宿泊税を「観光振興のための予算」として導入を主導した首長や議員が代わってしまうことや、税収として行政の会計に組み入れられた宿泊税が、財政状況によっては「観光振興のための予算」という位置づけを拡大解釈され、公共工事等に用いられてしまうためである」 江﨑氏は、宿泊税を観光振興に使うことの意義を、次のふたつの観点から説明している。 第一の観点は、観光振興への投資が「地域全体に波及効果をもたらす」点だ。例えば、城の天守閣の維持や復元は、一見すると観光客のための施設整備に見えるが、それは地域のシンボルとなり、都市全体のブランド価値を高める効果を生む。つまり、観光施策が地域全体の価値向上につながるということだ。 第二の観点は、観光振興策が「公共財を活用して公共サービスの充実にもつながる」点だ。典型的な例として、観光地での循環バスの運行がある。これは観光客の利便性向上だけでなく、地域の渋滞緩和や環境負荷の低減にも貢献する。このように、単独では採算が取れなくても、観光客と地域住民の両方に便益をもたらす公共サービスへの投資が可能になるのが、宿泊税の重要な役割だ。