揺るがぬ信念と達観の狭間で――石毛秀樹が移籍を決断するまで
編集後記
「移籍を決断するまでの心境を教えてもらえませんか?」 石毛選手へ送った取材依頼書の内容を要約すると、この一文になる。本人にとって積極的に話したいテーマではないことは明らかで、断られる可能性が高いことを覚悟した上でのオファーだった。 しかし、返事はまさかの「OK」。インタビューは週末の試合にむけてアウェイ遠征中のホテル内で行われた。「ホームタウンからアウェイへの移動時間が18時間かかったり、試合日の4日前から移動したり」というハードスケジュールの疲労を見せずに、難しい質問にも誠実にご対応いただいた。 取材後、石毛選手とアドバイザーリー契約を締結しているSSK社(ヒュンメル)所属の服部等氏から「石毛さんは出場機会がない時でも我々と何も変わらず接してくれたんです。こないだ仕事でガンバに行った時も『石毛さん、Aリーグで活躍しているね』という話題が出たりして、あの人柄でみんなと良い関係を築いていたんやなぁと思う」というエピソードを教えてもらった。 そうしたポジティブな関係性の一端はインタビュー中にも垣間見ることができ、2024シーズンに出場機会を得られなかったことに対する悔しさとは別に、繰り返し語られたのはガンバ大阪への感謝だった。 「清水で苦しい時間を過ごして、(移籍した)岡山でそこそこの結果を残して、次の選択が重要だと思っていた時にガンバのようなビッグクラブから声をかけてもらえたこと自体がすごく嬉しかったんです。苦しい時間もありましたけど、在籍できた2年半は本当に幸せな時間でした。記憶に残っているのは2023年のアウェイ新潟戦。ダニが就任して序盤はなかなか勝てなかったですけど、この試合に先発で出てチームが勝ってから夏場にかけて勝ち点を積み重ねた期間は楽しかった。活躍しても次節はベンチとか、出場時間はあまり伸びなかったですけど、安定したパフォーマンスを出せたとポジティブに捉えています」 数年単位で別れを繰り返すことが当たり前の世界。良い時間も、悪い時間も、すべてを受け入れてキャリアを重ねるプロサッカー選手たち。石毛選手も既に目線は未来に向いている。ただ、「移籍前にサポーターに挨拶できなかったことは心残り」とのことなので、移籍発表から2か月が過ぎたタイミングではあるが、あらためて本人からのメッセージで記事を締めたい。 「2年半ありがとうございました。良い時間より難しい時間の方が長かったですけど、ガンバでプレーできて本当に幸せでした。今夏から大きな変化を伴うチャレンジを決断しました。日本でAリーグの試合映像を観てもらうのは難しいかもしれないですけど、自分が活躍してニュースなどで良い報告ができればと思っています。 ガンバも、大阪も好きになったので、今後は1人のファンとして応援します。自分が在籍期間中にタイトルを獲ることは叶えられませんでしたけど、今年は天皇杯で優勝する可能性があるので、その瞬間をTV画面越しで観たいです。仲の良いチームメイトの皆がチャンピオンになれば僕も幸せな気持ちになれると思うので、楽しみにしています!」 [ライタープロフィール] 玉利剛一(たまり・こういち) 1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。X(旧ツイッター)ID:@7additinaltime 取材協力:hummel Photos:Getty Images
玉利剛一(フットボリスタ編集部)