揺るがぬ信念と達観の狭間で――石毛秀樹が移籍を決断するまで
決断
チーム内で難しい立場にあることを自覚した上でも、前向きな準備を続けることができたのは「辛過ぎて悟りを開いた」と語る、清水エスパルス所属時代の経験が大きい。 「2021年ですね。2019年に右膝前十字靱帯と右膝内側側副靱帯を損傷して、翌年は右ハムストリングスを肉離れ。2年間ほぼプレーできない時期が続いた後のシーズンだったんですけど、(同年に就任した)ロティーナ監督にまったく試合に起用してもらえなくて……というか、サッカーをさせてもえらない状態で。練習も、(ウォーミング)アップすら参加させてもらえないような半年間でした。1年目の選手と練習場の隅で3対1のボール回しをやって練習時間が終了する日もありましたし。 なんかもう……感情が無くなるんですよ。自分の中に『無』を見つけたみたいな。あの底辺を一回味わっているので、練習に参加させてもらえるガンバでの時間はメンタル的には問題なかったです(苦笑)。やれることをやって、あとは監督が決める。大事なのは時間を無駄にせずに、筋トレとか自分に足りないことを意識してプラスアルファのトレーニングをすることだなって」 清水エスパルス時代の経験を糧にチャンスを待ち続けた2024年シーズン前半戦。「ガンバのチームメイトが本当にいい人ばかりだった」ことや、「試合に出ても出なくても同じように接してくれる」家族の存在も、出場機会を得られない日々の中でモチベーションを維持させてくれた。 「少しでも長くガンバでプレーしたい」 それは大阪での生活を気に入っていた石毛家としての願いでもあった。 しかし、プロサッカー選手としてプレーできる時間は短い。今年30歳を迎えた石毛にとって、出場機会を得られないクラブから離れる選択はいつか決断しなければいけないものだったと言える。 ガンバ大阪の選手として最後の出場となったのは、7月25日に開催されたレアル・ソシエダ戦。「この試合だけが移籍の理由ではない」としつつも、78分からの途中出場しかプレー機会が与えられなかった事実は簡単に消化できるものではなかった。 「試合前は45分間くらい出場して、自分がやれることをアピールして出場機会に繋げていくことをイメージしていました。けど、結局(出場時間は)10分くらいでしたよね。この使われ方を見て『あぁ、これはもう(ガンバ大阪に)残っても厳しいな』と思いましたし、年齢的にも1シーズンほぼ試合に出ていない選手が冬にオファーを受けられるのかと考えると……。今後のサッカー人生のためにも夏に移籍を考える必要があると代理人や妻と話しました」 9月2日、ガンバ大阪は石毛秀樹がWellington Phoenix Football Club(ニュージーランド)へ完全移籍することを発表。2024年リーグ戦の出場試合数:4、出場時間:42分。ガンバ大阪でのラストイヤーは不完全燃焼で幕を閉じた。