【ウクライナ海軍にも就航予定】トルコの最新鋭ステルス艦・クナルアダが来日した「深い理由」
日本には在日米海軍の基地があり、母港としている横須賀や佐世保に行けば、米海軍艦艇の姿をいつでも見ることができる。その他にも交流のある国の海軍が日本の港にやって来ることもある。海上自衛隊の護衛艦も任務や訓練のために世界中を巡っており、こうした艦艇の相互訪問は、平時における軍事交流において非常に重要であると考えられている。 【画像】すごい…! トルコ海軍の技術が詰め込まれた「最新鋭艦」肉薄撮! 今年6月はトルコ海軍、インド海軍、オランダ海軍の艦艇が立て続けに訪日する珍しい月となった。注目はトルコ海軍だ。 6月8日~11日の和歌山串本港、12日~16日の東京港、18日~21日の呉港と巡った。訪日目的は二つあり、まず一つが「日本とトルコ国交樹立100周年記念」のための親善訪問。そうしてもう一つが「エルトゥールル」号の慰霊だった。 1890年にオスマン帝国初の親善訪日使節団を乗せた「エルトゥールル」号は、11ヵ月をかけ、6月7日横浜に寄港した。無事大役を果たすも、艦内でコレラがまん延して、そのまま3ヵ月間、日本に留まることになった。 コレラはなんとか終息し、9月15日出港。帰国を急いだが、翌日、和歌山県紀伊大島沖を航行中に台風の影響を受けて座礁。約600名の乗員とともに沈没してしまった。その際、串本町(当時は大島村)の住民らが救助活動にあたり、69名が助け出された。トルコは今でもその時の恩を忘れておらず、来日した際は必ず串本町へ寄港している。 このように、トルコ海軍とは戦前より交流があるのだが、今回の訪問は特別だった。非常に珍しいステルス艦「クナルアダ」が来日したのだ。’11年に4隻が配備された「アダ」級の4番艦にあたり、’19年9月29日に就役したばかりの最新艦である。 特徴は究極のステルス化を目指した船体であること。敵のレーダーの反射を拡散すべく、艦橋構造物にはかなりの傾斜がついている。搭載されている武器は、トルコ国産の対艦ミサイル「アトマカ」。米海軍の対艦ミサイル「ハープーン」の射程が約140㎞であるのに対し、「アトマカ」は約220㎞を誇る。 いま、世界の海軍ではステルス化した軍艦が主流。「アダ」級の誕生は注目を集め、トルコ政府は「アダ」級の輸出を決めた。その最初の輸出先となったのがウクライナだ。 ’14年のクリミア併合以降、ウクライナ海軍は多数の艦艇を失った。ロシアと黒海を隔ててにらみ合う緊張状態であったため、軍事的均衡を保つべく、最新艦艇の配備は急務だった。そこで、アダ級を購入することを決め、’21年にイスタンブール海軍造船所で起工した。 その翌年、ロシアによる軍事侵攻が始まり、ウクライナは戦場となったが、その間もトルコでは建造が進められていた。’22年に進水式を迎え、与えられた艦名は「ヘーチマン・イヴァン・マゼーパ」。作業は遅れているようだが、’24年中に就役予定となっている。さらに’23年には2番艦「ヘトマン・イヴァン・ヴィホウシキー」の建造もスタート。この2隻が完成すれば、真っ先に対ロシア最前線へと送り込まれることだろう。 「クナルアダ」は入港のたびに、日本国民と親睦を深めるため、艦艇の一般公開を行った。東京港では、朝から長蛇の列ができた。最新鋭艦だけあって、艦内での写真撮影は禁じられていたが、それでも見学者の列は絶えることはなかった。多くの見学者たちは、この「クナルアダ」の同型艦がロシアと戦うことになるとは思いもよらなかっただろう。 取材・文・PHOTO:菊地雅之
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