料理家、作家・樋口直哉さんの【土地の思い出と共に心に残る、旅先での一期一会】
(愛媛)石鎚黒茶 3年熟成
生産現場を取材するために愛媛へ赴きました。日本に発酵茶は4つあり、そのうちの1つが愛媛の石鎚山(いしづちさん)の麓で代々受け継がれてきた石鎚黒茶です(ほかは富山県のバタバタ茶、徳島県の阿波番茶、高知県の碁石茶)。珍しい乳酸菌による二段発酵茶であることから、その製造技術は国の重要無形民俗文化財にも指定されています。食中茶として、穏やかな酸味が料理をおいしくしてくれます。 普通なら茶葉を〝摘む〟ところ、ここでは枝ごと切って軽トラックで運ぶというワイルドな収穫風景でした。 枝を切り揃え洗浄した茶葉を釜で蒸し、それを台に広げて枝を取り除いたら、山で一次発酵。その後ナイロン袋に入れ、空気を抜きながらポリバケツに押し込み二次発酵(乳酸菌は嫌気性発酵。漬物と同じです)。気温の低い山の上までトラックで運んで発酵させるというところに面白みを感じました。 収穫は夏の暑い時期。室内で飲んだ冷たい石鎚黒茶のおいしかったことといったら! 「石鎚黒茶さつき会」 愛媛県西条市小松町北川396
イラストレーション・本田しずまる 文・黒澤 彩
『クロワッサン』1131号より
クロワッサン オンライン