デビュー53年目のあがた森魚に聞く、アルバムを発表し続ける理由と宇宙観点の恋愛論「今の時代にもボニー&クライドみたいな二人が人知れずロマンチックな恋愛をしているかもしれない」
あがた そもそも人間同士の直接的なコミュニケーション自体が減ってきていますよね。そのほうがスマートかもしれないけれど、僕は少し面倒くさいくらいのほうが面白いと思います。コンビニに綺麗に陳列された商品のほうが社会的には優れているのかもしれないけれど、畑で採れたゴツゴツした野菜のほうが美味しいかもしれないし、オーガニックかもしれない。 別にどちらを選んでも良いんだよ。何をどう選ぶかは人それぞれだから。でも僕は、社会的にアンモラルで非常識だったとしても、瀬戸内寂聴さん(註:1)や宮城まり子さん(註:2)のような人たちが好きなの。実際、彼女たちだから説くことができた女性論、男女論、ヒューマニズムがあるわけです。 (註:1)20歳で見合い結婚、出産を経験するも、25歳で夫の教え子だった4歳年下の青年と駆け落ち。その後、人気作家となった後も同じく作家の井上光晴と約7年に渡り不倫関係に。出家後、85歳にして37歳の既婚男性と関係を持つなど、波乱万丈な生涯だった。 (註:2)既に妻子のいた小説家・吉行淳之介を吉行が亡くなるまでの35年間、愛人(パートナー)として支え続けた。吉行夫人もまた、終生離婚に同意をしなかった。 ――事実だけを拾うと糾弾されても仕方のない恋でも、実態はとてもロマンチックだったり、愛おしかったりするものですよね。 あがた そういうのを賛美しすぎると、社会が混乱するのも分かる。それでも、今の時代もどこかで人知れずボニー&クライド(註:3)みたいな二人がいて、ものすごくドラマチックな恋愛をしているかもしれないじゃない。せっかく生きているんだから本能に従って、もっとはみ出して良いんだよ! と言いたいね。はみ出し方にしたって、内田裕也からビートルズまで、色んな先例があるんだからさ。 (註:3)1930年代、アメリカで強盗や殺人を繰り返した犯罪者カップル。世界恐慌と禁酒法により社会に対する市民の不信感が募っていた時代、自由を求め駆け抜けた美男美女の二人を英雄視する人も多かった。 ――「はみ出していい」。その言葉、大事に受け取りたいです。少し話は変わるかもしれませんが、あがたさんのデビュー曲にして代表曲である「赤色エレジー」もまた「愛」について歌った楽曲ですよね。発表から50年以上経った今もなおライブで歌われていらっしゃいますが、歌への思いなど、当時から変化はあるものなのでしょうか? あがた どうだろうね。聞く人がどう思うかは別として、僕自身の感覚としてはあまり変わっていない気がします。「愛は愛とて~」と歌ってはいるけれど、当時の僕は20歳そこそこ。同棲どころか女性のことすらよく分かっていない時期に作った歌だから、ブルースとしての「愛」じゃなく、「俺もあの二人みたいな恋愛をしてみたいな」って憧れ、イマジネーションなんだよね。 あれから大人になるにつれ、多少経験を重ねたとはいえ、初めて『赤色エレジー』という漫画を読んだときに得た感動、(作中に登場する)幸子と一郎という二人の幼(いとけな)い恋愛に対して抱いた愛おしい気持ちは変わらない。だから、今も歌い続けられているのかもしれないですね。 ――なるほど。そのように変わらぬ気持ちで歌い続けられる楽曲があることは、あがたさんにとって"支え"になっているのでしょうか?