デビュー53年目のあがた森魚に聞く、アルバムを発表し続ける理由と宇宙観点の恋愛論「今の時代にもボニー&クライドみたいな二人が人知れずロマンチックな恋愛をしているかもしれない」
あがた 「赤色エレジー」は大事な歌だよ。やっぱり、われながらいい歌だなって思う。ただ、これまでの人生で得た経験や評価は確かに自分だけの財産だし、間違いなく"あがた森魚"を形成するものではあるんだけど、「これが、あがた森魚の代表作です」とお墓にまで持って行くほどのことかと言われれば、そうでもない。 そんなことより、もっと次に行きたい。あるいは、次も何もなくて良い。だってさ、ロックンロールっていうのは常に転げているものじゃない。"ライク・ア・ローリング・ストーン"だよ。その発想に則って、今の考えを言っているわけじゃないよ。昨年、後期高齢を迎えたわけだけど......まぁ、そんなことはどうでも良いんだけどね。年を重ねたら自ずとロックに辿り着いた、という感じなんです。もちろん、色んな発想があって良いんだけど。 ――カッコいいです。これからも毎年のアルバム制作、音楽活動を辞める気はない。と、捉えてよろしいでしょうか? あがた まぁ、そういうことになるね。毎度「これが最後でも良い」という気持ちで、頑張ってアルバム制作に臨んでいるわけだけど、何だかんだでいつも未練タラタラなんです(笑)。「ああでもない」「こうでもない」とギリギリまでこだわって、色んなアレンジを試しては、周りのスタッフから「もうどれでも良いよ!」と半分呆れられ。完成させた自負はあっても、改めて聞き直すと「この歌い方で良かったかな?」と気恥ずかしくなっちゃう。その繰り返しです。だからこそ、また次を作りたくなるの。 あと5年、10年と言い続けて、どれほど経ったか分からない。90歳、100歳まで生きたいとは思わないけど、何かに欲情する気持ちがある限りは、春の訪れに気分が上がるような、あるいは日常と宇宙をごっちゃ混ぜにしたような、そんな歌を作って皆さんと遊べたら良いなーと思いますね。●あがた森魚(あがた・もりお) 1948年9月12日生まれ 北海道留萌市出身 1972年『赤色エレジー』でデビュー。ニューウェイブ・バンド「ヴァージンVS」(1981年結成)や、ワールド・ミュージックの要素を取り入れたユニット「雷蔵」(1990年結成)など、音楽活動だけでも多岐にわたるほか、映画監督として『僕は天使ぢゃないよ』(1974)『オートバイ少女』(1994)『港のロキシー』(1999)などを制作、俳優としてテレビドラマや映画にも出演。2024年8月に発売されたハロー!プロジェクトのトリビュートアルバム『シューティング スター』にも参加。スマイレージ「あすはデートなのに、今すぐ声が聞きたい」をカバー。公式X【@agatamorio50】 ■ニューアルバム『オリオンの森』 定価/3,300円(税込)2024年現在のあがた森魚の近未来憧憬デジャヴが集約されたエポック的アルバム。イナガキ・タルホ、ボブ・ディラン、フィル・スペクター等を起点として、ロック、ポップソング、オルタナ、ヒップホップ、民族音楽、トランスミュージック等へと実験的な音楽表現を幾多果敢にトライした。共同サウンドプロデュースは、伊藤彼方、塚原義弘。ジャケットのイラストは池田修三。写真は杉浦邦恵。 取材・文/とり 撮影/宮本賢一