デビュー53年目のあがた森魚に聞く、アルバムを発表し続ける理由と宇宙観点の恋愛論「今の時代にもボニー&クライドみたいな二人が人知れずロマンチックな恋愛をしているかもしれない」
あがた まぁ、毎年のことだからね。その時々によるというのが、正直なところ。「今度はこういうアルバムにしたいな」と明確なテーマを持って作り始めることもあるけれど、思いを巡らす中で数年前に作ったアルバムのことを思い出したりもする。イメージとしては、テーブルの上に散在している楽曲をギューっと寄せ集めて、コラージュする作業に近いかな。そうして、リアルタイムな自分らしさに集約していく感じです。 それこそ、先月出したニューアルバム『オリオンの森』に関して言えば、本当は昨年リリースの予定でした。ただ、制作期間中に起こったウクライナ侵攻に意識が引っ張られるうちに、収集がつかなくなって......。結局、旅のモチーフに切り替えて『遠州灘2023』というアルバムを作りました。"オリオン"というモチーフ自体は、2018年のアルバム『理想の靴下と船』の1曲目「オリオンの腕」が元となっています。と、こんな具合に、あっちこっち行き来しながら作り続けているんです(笑)。 ――何が何でも毎年1作はアルバムを出すぞ、と(笑)。そのバイタリティは、どこから湧いて来るのでしょう? あがた 先ほどおっしゃっていただいた通り、きっかけは震災でした。数年も経てば、きっと人々の記憶から3・11は薄れていく。僕に何ができることは?と考えた結果、「2010年代は毎年アルバムを発表し続けよう」と決心しました。気づけば2020年代に突入した今も続いているわけだけど、元を辿れば、子供の頃に大人たちから沢山のプレゼントをもらった経験が大きく影響している気がします。 ――と言いますと? あがた 僕は終戦から3年後の1948年生まれ。いわゆる団塊の世代です。戦後復興の中で子供時代を過ごした、言い換えれば、大人たちから文化的なエンターテインメントをドーンっとプレゼントされて育った世代なんです。 というのも、例えば、当時の月刊少年漫画誌『少年倶楽部』『少年』には、本誌と別に小さな冊子が必ず3~4冊ほど付いてきたんですよ。お正月の号には10冊くらいあったんじゃないかな。読んでも読んでも、まだ続きが読める! これがどれほど嬉しかったか。 ――10冊も! 戦後の子供達に夢を持ってもらいたいという、大人のはからいでしょうか。 あがた そうだね。子供の頃に見たウォルト・ディズニーの映画『海底二万哩』『ファンタジア』も、カバヤ児童文庫も、東映の時代劇やチャンバラ映画も、全てに、夢とロマンが詰まっていました。それから、小学校の入学祝いにもらった文房具の詰め合わせセットも忘れられません。中に入っているのは、文具屋でバラ売りされている普通の鉛筆と消しゴムなんだけど、贈り物として包装されてギフトになっているだけで特別な気持ちになりました。 そんな当時の感覚が、ずっと心の中にある。だから僕も、色んなものを詰め合わせてプレゼントしたい。あなたに、喜んでもらうために......。そういうモチベーションなんですね。 ――では、ニューアルバム『オリオンの森』についても聞かせてください。とにかく遊び心に富んだサウンドが楽しげで、幻想的かつ郷愁的な印象も受ける。歌詞中に「宇宙」「銀河」といった言葉のほか「船」「汽車」「バス」など乗り物も多く登場していることからも、旅をしているような気分になるアルバムでした。