日本企業で「必要以上に働かない社員」を増殖させた、働き方改革の落とし穴
働き方改革が増殖させた「コスパ人材」
組織コミットメントを高めるには、3つのコミットメントをバランスよく高めるように様々な施策を組み合わせる必要があります。しかし、「働きやすさ」の実現に偏った働き方改革が、「楽に働けて給与がもらえる」という存続的コミットメントを高め、結果的にコスパ人材を増殖させている、と私は見ています。極端な表現をすれば、彼らにとって会社とは、ベーシックインカムをくれる存在になっているとさえ言えるのです。 「静かな退職」という言葉も聞かれるようになりました。「従業員規則やジョブ・ディスクリプションに従って必要最低限の仕事をして給料を得る」、すなわち「必要以上に働くことを辞める」という働き方を表す言葉です。 「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉が生まれたアメリカでは、静かな退職状態にあるのは若者世代が中心だと言いますが、日本では40代・50代のミドル世代が多いと言います(クアルトリクス合同会社「2023年の従業員エクスペリエンスに関する調査結果」より)。要するに、「働かないおじさん」「定年まで逃げ切りを図る社員」ですね。 会社員人生の終わりが見えてくる年齢になれば、牛歩戦術で与えられた仕事だけをやったり、「来期に持ち越し」「後任に引き継ぎ」としておけば、負荷のかかる仕事を回避することができます。 冒頭の副業の話と同じように、これも個人の生き方としては「あり」でしょう。ただし、こうした人材の存在は、そのうちやる気のある人材をも蝕み、組織全体の硬直化を招くことになります。 そうならないためには、短期的には成果が出なくても長期的に見れば会社にとってメリットのある仕事を推進している人や、現場での泥臭い行動に尽力している人をちゃんと見て、引き上げていく、ということが理想論として挙げられます。 また私は、コスパで仕事をしているような人は、いずれ副業先からも切られるときがくると思っています。副業の内容にもよりますが、副業は基本的にスキルの量り売りです。でも、副業先でも本当に欲しいのは、リーダーシップを取ってコスパ度外視でごりごり働いて、組織づくりもできる人材だからです。なぜなら、そうした人材は圧倒的に不足しているから。 そうなると、「本業で誰も成し遂げていなかったことに取り組んで、コスパ人材には解決できなかった課題を解決した」という実績を持っている人材のほうが、長期的にはコスパも良くなると考えています。みんなが解決を避けている課題のほうが、実は価値が高いからです。