なぜ堀口恭司は必殺の「カーフキック」を使い朝倉海にリベンジを果たすことができたのか?
堀口は膝の手術の長いリハビリ期間を使いファイターとしてのスタイルをリニューアルしていた。だが、朝倉海は、「過去の映像は参考になる。癖は直らない。変えてくるところはあると思うが対応できる、問題はない」と問題視していなかった。 堀口は、昨年の8月に記憶をなくして68秒で敗れさった堀口とは別人だった。バックステップで朝倉のパンチが届かない距離をキープ、またふくらはぎを狙った際に、右のフックが飛んできたが、頭を下げてかわした。そのまま左手をつかんで引き込む。 ワンツーを逆に見せると、朝倉は意表をついて右のアッパーを打ってきたが、それも体をかえて空をきらせ、左手で頭をたたいて体勢を崩させた。朝倉のパンチは全部見切っていた。 準備力の差…勝負はゴングの前についていたのかもしれなかった。 「自分の身体が前回、海君と去年やったときにボロボロだったので」 実は、昨年8月の敗戦時は、もう膝と腰が壊れてしまっていて、ほとんどと言っていいほど練習ができていなかった。スパーもゼロ。しかも試合時間が長くなれば肉体が持たない危険性があった。ウルトラマンのカラータイマーではないが、時間制限があった。だから、無理に早期決着を仕掛けて、朝倉海のカウンターの餌食になった。 「今回、あのパンチを食うことはない。ぶっとばしますよ」 1年4か月のブランクからくる試合勘の欠如、来日して2週間の隔離生活による調整遅れなど、不安材料が指摘されていたが、堀口が自信を失わなかったのは、コンディションが整い、準備さえできれば負けないとの確信があったからなのだ。 ATTで世界の強豪にもまれ、UFCでタイトル戦までやった堀口と、これから世界へ飛び立とうとする朝倉海のキャリアと地力の差が如実に表れた。 そして、前回、ゴングが鳴る前に敗れていた堀口は、1年4か月を経て、今度は己自身へのリベンジも果たしたのかもしれなかった。 「僕はアホですからね」 愛すべき好漢の常套句である。 緊張もしない。アドレナリンを出すこともない。モチベーションさえ理論詰めで話すこともない。そういう男は、ただ今回、「みんなを喜ばせたい」と繰り返し語った。朝倉海に敗れたとき、堀口以上に両親や兄弟、亡くなった空手の恩師、二瓶弘宇氏の家族や、故郷群馬の人たち、ATTの仲間、サポートメンバーら周囲が悲しんだ。だから、この日、こう叫んだ。 「前回海君とやったときにKO負けして、親がすごく泣いちゃったので。まだ親の顔を今回見ていないですけど、笑顔にできたと思うのですごく嬉しく思います」 朝倉海は、「まずは足を治して。いろいろ修正をして必ずリベンジしたい」と、ラバーマッチを望んだ。朝倉未来も「また見てみたい」と3戦目を熱望した。 榊原信行CEOも、「1勝1敗。まだ続くんだろうね、プロモーター的には次につながる 流れになった」と、3度目の対戦を視野に入れた。 だが、堀口には、3度目対決の前に返しておかねばならない借りがもうひとつある。ニューヨークのMSGまで乗り込んでダリオン・コールドウエル(米国)から奪いながら返上を余儀なくされたベラトールのバンタム級のベルトだ。現在、王者はアーチュレッタに変わっているが、彼への挑戦を最優先にしたい。 「返したものは取り返さないといけない。ひとつ取り返したので、もうひとつ取り返そうかなと思います」 3月14日のRIZIN東京ドーム大会のカードに、その日米頂上決戦が組まれるかもしれない。