AIが求める大量の水と電力、どうまかなう? 環境と社会へ配慮したデータセンターの挑戦
AI需要に伴う水利用量の増加に対する取組み
水の消費量削減の観点でも冷却方式の見直しは重要である。前述したように従来の空冷システムでは、冷却水の一部が蒸発することで大量の水を消費する課題があった。Microsoftは、「クローズドループシステム」という設計を採用し、水が蒸発しないようにしながら冷却を行うデータセンターを発表した。これにより、新しい水を補給する必要がないため、年間1億2500万リットルほどの水使用を削減できるとのことだ。
データセンターの今後
先に挙げた、米テキサス州電力規制当局や、米連邦エネルギー規制委員会の事例以外にも、規制によってデータセンター側へ改善を求める動きは欧州でも始まっている。 欧州委員会は、Energy Efficiency Directive(EED)を改正し、データセンター事業者にエネルギー使用量や効率の実績開示を求める制度整備を要請した。また、ドイツではEEDで求められる情報開示の項目に加えて、独自にデータセンターの効率要件を定めている。 今後もAI向けのデータセンター新設やエネルギー消費の増大の流れを考えると、同様な規制の動きは、世界各国で広まっていくと考えられる。 データセンターは、AIによる革新の基盤として重要な役割を担っている。これまでも、再生可能エネルギーの利用や効率的な冷却技術の導入などにより、環境や社会へ配慮した運営を実現してきたが、今後も登場する先進技術を支えるべく、データセンターにおいても技術革新が求められる。持続可能な運営に向けて、データセンター産業は大きな転機を迎えているといえる。
著者プロフィール:坂下 悠貴(さかした ゆうき)
野村総合研究所 IT基盤技術戦略室 エキスパートストラテジスト。クラウドおよびITインフラ領域での研究開発を大手メーカー研究所で経験後、2021年より現職。技術戦略策定、研究開発推進、新規事業企画などに従事し、技術革新を推進する役割を担っている。
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