AIが求める大量の水と電力、どうまかなう? 環境と社会へ配慮したデータセンターの挑戦
電力の消費拡大に対する取り組み
前述した米大手クラウドプロバイダーのような大規模なデータセンターを運営するクラウド企業では、脱炭素に関しても先進的に取り組んでおり、温暖化ガスを排出しない電力を確保しようとしている。 そのため、大手クラウドプロバイダー各社は、原子力発電所との契約や次世代の原子力発電である「小型モジュール炉(SMR)」への投資などを相次いで行っている。データセンターでは、24時間365日の安定稼働と、大規模な電力が求められることも原発が注目される要因の一つと考えられる。 一方で、原発だけで十分な電力量が確保できるかには疑問がある。電力市場などを専門とする米コンサルティング会社Grid Strategiesが出した試算結果によれば、生成AIなどの登場で電力需要は増大傾向で、米国のピーク時の電力需要が、2023年から2028年までの間に38ギガワット増加すると予測している。これはスリーマイル島原発1号機の約46基分に相当する。 2024年1月時点で米国で稼働している原発が93基であることを考えると、5年程度でその約半数の原発を新たに稼働させるのは高いハードルといえる。従って、新たな電力源の確保だけでは不十分と考えられるため、データセンター内の電力効率化の技術開発にも着目したい。 注目される技術の一つが、AIの処理に特化させて高効率化させたプロセッサである。米AIスタートアップEtchedはChatGPTなどで採用されるTransformerアーキテクチャに特化したASIC(Application Specific Integrated Circuit: 特定用途向け集積回路)であるSohuを発表した。 Sohuは、画像処理や音声処理、従来型のAI計算(リカレントニューラルネットワークなど)なども実行できないが、Transformerに特化させることでNVIDIA GPU「H100」よりも20倍以上高速で、消費電力も抑えられるとしている。 その他にも、Cerebras CS2、Groq LPU、Google TPU、AWS Trainium/Inferentiaなど、ASICアーキテクチャのAIチップが登場してきており、性能だけでなく消費電力の観点でも注目される技術である。 次に、データセンターの冷却方式を見直すことによる電力効率改善も注目されている。現在は、空冷が主流であるが、消費電力の観点では課題がある。送風機に使う電力が大きい点や、サーバの冷却効率が低い点などだ。 特にGPUのような筐体(きょうたい)あたりの発熱量が大きい機器に対しては、空冷の限界が見えつつある。そこで、サーバラック内の配管に冷却水を送る「液冷」や、絶縁性の液体にサーバを浸して直接冷却する「液浸」などが今後の候補となる。 国内のデータセンターにおいても、NTTコミュニケーションズがサーバのヒートシンク(GPUなどのチップからの熱を放熱するためにつけられている部品)へ直接液体を供給する「直接液冷」を採用したデータセンターサービス「Green Nexcenter」を2025年3月より提供を開始する計画である。