米大統領選、過去の大接戦と圧勝劇は? 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
アメリカ大統領選の一般投票が8日(現地時間)、始まりました。事前の支持率では、民主党クリントン候補の優勢が伝えられてきましたが、私的メール問題のFBI捜査報道などもあり、最終盤には共和党トランプ候補の猛追を受け、接戦になっていると報じられています。 【写真】<米大統領選>トランプ氏が支持率で猛追 逆転の可能性はあるのか? 世界最大の経済大国にして軍事大国。唯一の超大国とも呼ばれるアメリカのリーダーを決める選挙は、過去も多くのドラマを生んできました。大統領選の過去の大接戦や圧勝劇を、戦後に絞って考察してみます。
【圧勝】1952年「アイゼンハワー×スティーブンソン」
1929年に発生した世界恐慌の克服に加えて、第二次世界大戦の指揮を採った民主党のフランクリン・ルーズベルト大統領は史上最多の4選を果たしました。対日戦争終了直前に亡くなり、憲法の規定によってトルーマン副大統領が昇格します。 対日戦争の終結や戦後処理を担った後の1948年、トルーマンは大統領選に立候補しました。基盤の民主党が分裂するなど敗色濃厚とみなされていたにもかかわらず、共和党候補に奇跡の逆転勝利。結局民主党は約20年間、共和党を退け続けました。なおルーズベルト大統領の4選を期に憲法が修正され、51年からは現在と同じ4年2期までとなりました。 この48年選挙で共和党の一部から候補に擬せられたのが第二次世界大戦欧州戦線の英雄であったアイゼンハワー陸軍元帥です。この時は固辞しましたが、次の52年選挙では共和党の切り札としてトルーマン後継のスティーブンソン候補との勝負となります。 スティーブンソン候補はイリノイ州知事。政治家の名家の生まれで弁護士。大変な雄弁家でまさにエリートの趣があります。アイゼンハワー候補は政治経歴がない「ただの軍人」でホワイトハウス入りしても何もできないと印象づけようとしました。 アイゼンハワー候補はそこを逆手に取って民主党政権末期に起きた汚職事件を取り上げて清潔さをアピールしました。また日本が敗戦で中国・朝鮮半島から撤退した後に共産主義勢力が台頭し、50年から始まった朝鮮戦争の戦局がはかばかしくなかったので軍の英雄にかける国民の期待も強まりました。 支持者が身につける「選挙ピン」の威力も大いに発揮されました。“I Like Ike(私はアイクが好き)”はドワイト・「アイク」・アイゼンハワーの応援スローガンで、「ライク・アイク」の韻が評判となり口ぐせのように広まります。結果は48州(当時。アラスカとハワイがまだ未加盟)のうち39州を制して地滑り的勝利を果たし20年間の民主党支配を終わらせました。 56年の大統領選挙も同じ顔合わせでアイゼンハワー大統領が前回より多い41州を制しました。「ただの軍人」であっても、その軍歴が輝く朝鮮戦争の終結や回りに有能な人物を配して安定した政権運営をしたのが評価されたようです。