うつ病の脳の6つのタイプを特定、症状や効く治療法も異なる、画像による正確な診断に光
バイオタイプごとの治療が必要な理由
精神科医がそれぞれのうつ病患者のバイオタイプを特定できるようになれば、最適な治療法を提供できるようになると、米マサチューセッツ州バーリントンの医療機器メーカー、ブレインズウェイの最高医療責任者で、認定精神科医であるアロン・テンドラー氏は説明する。氏は今回の研究には参加していない。 スタンフォード大学の研究チームは、うつ病の一般的な治療法の一部について、各バイオタイプにどのように効いたか（あるいは効かなかったか）も測定している。 実験では、250人の参加者を、心理療法を受けるグループと、最もよく処方されている3種類の抗うつ薬であるエスシタロプラム（レクサプロ）、ベンラファキシン（イフェクサー）、セルトラリン（ジェイゾロフト）のいずれかを投与されるグループに無作為に分けた。 ウィリアムズ氏によれば、あるバイオタイプのうつ病患者が特定の抗うつ薬によく反応した例や、別のバイオタイプの患者では薬にはあまり反応せず、心理療法で改善した例が複数あったという。 スタンフォード大学の研究チームは、2024年4月にも、認知制御回路に関わるバイオタイプのみに着目した論文を発表している。この研究では、fMRIで脳をスキャンして標的を絞った治療を受けたうつ病患者は、脳をスキャンせず一般的な治療のみを受けた患者よりも、症状が軽くなったり消えたりする可能性が高くなることが示された。 ウィリアムズ氏らは、両研究とその後の7月に医学誌「Nature Mental Health」に発表した研究により、医師がうつ病患者に最も効果的な治療法を処方できるようにする上で、fMRI技術がいかに役立つかを示した。
限界と期待
精神科医で、米コロンビア大学の特別教授であるポール・アッペルバウム氏は、今回のスタンフォード大学の研究を「有望」と評価しながらも、この研究の参加者のほとんどが白人であることを指摘して、ほかの研究チームにより、もっと多様な患者を対象として再現される必要があると言う。 また、今回の研究では3種類の抗うつ薬と限られた数の心理療法しか検討されていないため、今後の研究では、ほかの多くの確立された治療法も含める必要がある。 バイオタイプの特定に必要なfMRI装置が使えるかどうかにも大きな障壁がある。こうした装置は、少数の大規模な医療センターにしかないからだ。 しかし、今回の知見がほかの研究によって裏付けられ、それぞれのバイオタイプごとに有効な治療法が示されれば、「この分野の分水嶺になる可能性があります」と、米コーネル大学の心理学教授であるジョナサン・ロッテンバーグ氏は言う。「この研究は、うつ病の治療をより効率的で効果的なものにする可能性を秘めています」
文＝Emily Sohn／訳＝三枝小夜子
