ガソリン税減税「トリガー条項」よりも“根深い”問題…50年前の「一時的な増税措置」が“今も続いている”理由【税理士解説】
「暫定」だったはずの“高い税率”が50年も維持された「理由」とは
道路特定財源(ガソリン税・自動車重量税)の税収が歳出を大幅に上回るようになったならば、理屈としては、「暫定税率」は役割を終えたということになるはずである。本来、廃止するか、あるいは一般財源に組み込むにしても、少なくとも税率を元に戻すのが筋ではなかったのか。 黒瀧税理士は、ガソリン税と自動車重量税が一般財源に組み込まれた際、税率を「暫定税率」と同じ数値で維持するにあたり、政府・与党によって「理由の差し替え」が行われたという。 黒瀧税理士:「不思議なことに、当時は『役割を終えたから廃止すべき』という原理原則に則った議論はあまり行われなかったようです。 政治家の多くも、マスコミの報道も、『道路特定財源』が『道路族議員の既得権となっているのはけしからん』などの理由で『一般財源化』を支持する論調が大勢でした。また、国民の多くもそれを支持しました。 そんななか、当時の政府・与党は『厳しい財政事情』と『環境面への影響の配慮』を理由として、『暫定税率による上乗せ分を含め、現行の税率水準を維持する』としました(上記資料参照)。 そして、名称が『暫定税率』から『特例税率』に改められ、まったく同じ数値のまま引き継がれました。これが『当分の間税率』と呼ばれるものです。 つまり、法理論上は、ガソリン税・自動車重量税を存続させて『暫定税率』を実質的に維持する理由が、もともとの『道路の整備のため』から、まったく関係のない『厳しい財政事情』『環境面への影響の配慮』へと差し替えられたことを意味します」
「租税法律主義」が形骸化するおそれも
税率を高く設定する理由が失われたにもかかわらず、別の理由に差し替えて存続させる。このことには法的観点からどのような問題があるか。 黒瀧税理士:「税金のことは国民代表機関である国会が決め、コントロールしなければならないという『租税法律主義』(憲法84条)が、実質的に骨抜きになるおそれがあります。 当時の政府・与党が挙げた理由のうち、『厳しい財政事情』は単に税収を維持したいという意味にすぎず、『環境面への影響への配慮』についての説明も決して十分とはいえません。 従来の『暫定税率』とまったく同じ税率を維持する合理的な理由が説得的に示されたとは言い難いでしょう。 政府の提案で『一時的に』税率を引き上げたら、元の理由が失われても、新たに何らかの理由・名目を設けさえすれば、同じ税率を維持していいということになりかねないのです」 なお、昨今、政党間の政策協議で、ガソリン価格が所定の額を超えて高騰した場合に「特例税率」の適用が自動的にストップする「トリガー条項」が話題になっている。これは2010年に当時の民主党政権が主導して設けられた。しかし、2011年3月に起きた東日本大震災をきっかけに、復興の財源を確保するという名目で、特別法により「凍結」され、今日までに一度も発動していない。