「大雨で数万人が孤立」なのに意外と平気…奇跡のフェス「バーニングマン」は想像を超えるクレイジーさ(前編) イーロン・マスクらIT長者がこぞって参加、7万枚が即完売、お金の通用しない場所
9月初めにあったアメリカ発のこんなニュースを覚えているだろうか? 「米西部ネバダ州で、一晩中降り続いた季節外れの雨のため、砂漠でのイベントに参加していた数万人が立ち往生した」 字面だけ読めば大災害のようにも思えるが、現地の実態は少し異なる。理由はこのイベントと、参加者たちの特殊性のためだ。 イベントは「バーニングマン」と呼ばれる音楽フェス。毎年8月下旬から9月上旬にかけてネバダ州の砂漠で1週間にわたって開かれている。フェスといえば、普通は食べ物や飲み物の屋台が並び、お金さえ出せば必要な物は買える。しかし、バーニングマンは原則、氷以外は金銭的やりとり禁止。必要な食料は自分で持って行くか、現地で他人から何かの対価として、あるいは純粋な贈り物としてもらわなければならない。しかも、最高気温は30度台半ば、夜は10度近くまで下がるという過酷な気象条件だ。目の前が全く見えなくなるほどの砂嵐も毎日のように吹くという。
一体誰がそんなフェスに行きたがるのだろうと思ってしまう。だが、毎年7万枚に限定しているチケットは発売開始とともに瞬間蒸発。マーク・ザッカーバーグやイーロン・マスクなど、米テック企業のレジェンドたちもこぞって行くという。 文字通り、常識ではかれないフェスだったからこそ、災害にもかかわらず、参加者はそれほど混乱もなく無事に切り抜けた。正直、日本から初参加の私はヒヤヒヤだったが。(共同通信=井手壮平) 【※この記事は、記者が音声でも解説しています。共同通信Podcast「きくリポ」を各種ポッドキャストアプリで検索してください→一生に一度は行きたい奇跡のフェス「バーニングマン」(前編) 行った記者も驚愕】 ▽高いハードル バーニングマンの第1の特徴は、参加ハードルの高さだ。 チケットを手に入れるだけでもひと苦労で、これは運に頼るしかない。主催団体には広報担当もいるが、プレスもチケットは自力で手に入れなければならない。会場は何もない砂漠の真ん中で、日本から行こうとすると通常は、西海岸の主要都市まで行ってそこから自動車か、国内線に乗り継いで最寄りの都市であるネバダ州リノまで行き、さらに2時間程度のバスに乗る必要がある。さらに問題となるのが、荷物の多さだ。食べ物や飲み物を「贈り合う」文化があるというものの、実際にどの程度(そもそも本当に)もらえるものなのかは行ってみるまで分からない。念のため当面は飢えない程度の食料と水を、衣服やテントに加えて持って行かなければならない。前述のように昼と夜では全く気温が異なるため、真夏用の服装と冬用の服装も両方必要になる。 それでも、私は昔から気になって仕方なかった。1997年に開かれたフジロックフェスティバルの第1回から、世界の音楽フェスのボス格ともいうべき英国のグラストンベリーフェスティバルまで、国内外のさまざまなフェスに参加してきた私にとって、最後のフロンティアだったのだ。