「大雨で数万人が孤立」なのに意外と平気…奇跡のフェス「バーニングマン」は想像を超えるクレイジーさ(前編) イーロン・マスクらIT長者がこぞって参加、7万枚が即完売、お金の通用しない場所
ただ、一緒に行ってくれる酔狂な人などなかなかいないし、1人で行くのは自殺行為のようにも思える。そんな中、道を開いてくれたのが、たまたま日本に帰国中だったロサンゼルス在住のトモ(齋藤智之)君との出会いだった。もう6回も参加している熟練バーナー(バーニングマンに行く人のことをこう呼ぶ)だという。しかもプロのフォトグラファーだ。そして私はたまさか音楽をテーマにした連載企画を担当している。惑星直列とはこういうことを言うのだろう。「連れて行ってください!」。ペリー提督に頼み込む吉田松陰のような気持ちで、迷わず頭を下げた。 その後、一般発売で申し込んだチケットがビギナーズラックで買えるという幸運も重なり、筆者は興奮と不安の混じった気持ちでサンフランシスコ行きの飛行機に乗り込んだのだった。 約10時間のフライト中、トモ君の言葉が思い出された。「最終的には奇跡が起きる場所だから、そんなに心配しなくても大丈夫」。まさかこの言葉が最後になって効いてくるとは、この時は知る由もなかった。
▽砂漠の中心で酒を出す バーニングマン参加者の多くは、「キャンプ」あるいは「テーマキャンプ」と呼ばれるグループごとにまとまる。キャンプはそれぞれが、クラブだったりバーだったり、あるいはマッサージやヨガの教室など、なんらかのものを他の参加者への贈り物として提供する。通常のフェスにたとえるならば、出店と居住空間が一緒になっているイメージだが、これがすべて商売目的ではなく、純粋な贈与のシステムとして成り立っているところが、このイベントの最大の特徴と言っていい。提供するモノやサービスに対してお金を取ることが御法度なだけでなく、それぞれのキャンプで働く人たちに賃金を支払うことも固く禁じられている。 普通の音楽フェスでは、主催者が用意したステージでアーティストが演奏し、出演料を受け取る。だがここでは、何十とあるステージは参加者がほかの人たちへの「贈り物」として用意し、アーティストも自らのパフォーマンスを無料で捧げる。音楽はテクノが多いが、ジャズ、クラシックまで意外と幅広い。