《56年ぶり》廃止された都電路線のレールが”出現”! 「希望」と「不要」対応が分かれた新宿区と文京区の事情
このとき、文京区はレール譲渡の打診を受けて区議会で議論した。その結果、神明車庫に都電の車両やレールが保存されていることを理由に申し出を断っている。そのため、今回の白鳥橋の都電遺構に関しても、同じ対応が取られることになった。
昭和100年となる2025年へ向けて
鉄道ファンや父祖の代から東京に在住している都民なら都電に対する思い入れは強いだろうが、荒川線しか知らない世代にとっては都電遺構と言われても、歴史を実感できない。 なにより都電が廃止されてから、まだ40~50年しか経過していない。そのため、都電のレールや敷石は歴史的な遺産とまで認識されていない。また、都電のレールや敷石は文化庁が定める埋蔵文化財にも指定されていない。そうした理由から、行政が積極的に保存するという動きにはなっていない。 文化財の価値は歳月が経過した後に判断されることも珍しくない。文化財も保存状態が悪ければ朽ちてしまうし、廃棄してしまえば取り返しがつかなくなることもある。 それだけに、早急に不要と判断して廃棄することは避けたいところだが、どの自治体でも近年は文化財保存の予算が縮減されていて、何でも保存できるという状態ではない。なおかつ収蔵スペースが不足しているという問題も抱える。 近年、博物館や大学といった学術機関ではデジタル化によって歴史的・文化的な遺産を保存する手法も増えている。史料として残すなら、それも時代に即した有効的な手段といえる。しかし、デジタル化による保存は実際に目で見て手で触れる体験ができない。そうした実体験は教育的な要素が強く、リアルな展示物が本領を発揮する。 2025年は昭和100年にあたる。テレビ・新聞・インターネットニュース・雑誌などで昭和を懐かしむ企画が増えることが予想されるが、それらを機に都電遺構もクローズアップされる。そのとき、都電遺構をきちんと保存して次の100年にも語り継ごうという機運は高まるだろうか。 まだ都内には都電のレールや敷石が埋まっている場所がいくつかある。それら都電遺構は、今後に何らかの工事で出土することになるが、その際に保存議論が再燃するに違いない。