JR東日本が「通過するだけ」の駅を「暮らしの起点」に転換しようとする狙い
近年、鉄道以外にも事業を多角化させるJR東日本。不動産事業でも駅前開発以外に旧社宅などの既存不動産を活用した再生住宅や立地を生かしたホテル開発が進む。交通インフラ企業の強みを生かしたビジネスに迫る。本稿は、枝久保達也『JR東日本 脱・鉄道の成長戦略』(KAWADE夢新書)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 「駅づくり」から「まちづくり」へ 「4本の柱」でサービス領域の拡大を狙う 2001年から2017年まで、4つの経営構想にまたがって進められたステーションルネッサンスは、2017年11月に策定された生活サービス事業成長ビジョン「NEXT10」で次のステップに入った。 内容としては翌年7月に発表されるグループ経営ビジョン「変革2027」の要素を先取りしている。 ステーションルネッサンスが、駅ビル・エキナカ開発により「通過する駅」からそれ自体が魅力を持つ「集う駅」に生まれ変わらせる計画だったのに対し、NEXT10は「駅づくり」から「くらしづくり(まちづくり)」への挑戦を掲げ、駅を中心にJR東日本グループのさまざまなサービス領域を拡大するビジョンを提示。 「4本の柱」として「のびる=事業エリアの拡大とオープンイノベーションを通じた事業創造」「ひらく=多様な魅力あるまちづくり(開発)の推進」「つなぐ=魅力発信と交流促進による地域活性化」「みがく=既存事業のバリューアップ」を設定し、2026年度を目途に生活サービス事業を営業収益、営業利益とも2016年度比で1.5倍とする数値目標を発表した。
「のびる」はこれまで、駅ビル、エキナカを中心に開発してきたショッピングセンター事業、ホテル事業、オフィス事業を新しい市場――マチナカ、JR東日本エリア外(中部・関西地方)、さらには海外に拡大するとした。 また、2010年代以降の技術革新を背景に、AIやビッグデータを活用したサービスの提供や、オープンイノベーションにより社内外のアイデアや技術・ノウハウを活用したビジネスやサービスを実現したいとしている。 ● 首都圏の大規模ターミナル駅で 「多様な魅力あるまちづくり」を推進 「ひらく」は、首都圏を中心とする大規模ターミナル駅開発、大規模複合型まちづくり計画として、横浜駅西口駅ビル開発(2020年に「JR横浜タワー」として開業)、渋谷駅街区東棟(2019年に「渋谷スクランブルスクエア」として開業)、浜離宮恩賜庭園を望む竹芝ウォーターフロントの再開発(「WATERS takeshiba」として2020年開業)が挙げられた。 上記の開発はいずれもNEXT10以前に着工しているが、源流としては「ニューフロンティア2008」(編集部注/2005年に策定された中期経営構想)が掲げた「駅直結の立地を活かした機能性、先進性に優れた大規模オフィス開発」や、「2020ー挑むー」(編集部注/2008年に策定された中期経営構想)の「大規模開発の推進」「駅の外でのまちづくりの取り組み」にあるといえるだろう。