JR東日本が「通過するだけ」の駅を「暮らしの起点」に転換しようとする狙い
ステーションルネッサンスに先行してサンフラワープラン(編集部注/1997年に策定。乗降人員3万人以上の駅を対象に、業務施設の移設や再編で価値の高いスペースを生み出し、エキナカ店舗やショッピングセンター、ホテルなどの新規開発を推進する計画)があったように、ステーションルネッサンスから「NEXT10」へのシフトも、Tokyo Station Cityなどの取り組みとともに水面下で着実に進んでいたというわけだ。 ● Suicaで駅空間と駅商圏をつなぎ 顧客との接点を増やして商機を創出 JR東日本は2021年に「Beyond Station構想」を策定し、駅をヒトの生活における「豊かさ」の起点と位置付け、「交通の拠点」から「暮らしのプラットフォーム」に転換する「くらしづくり」の方針を決定。社外パートナーとの共創で駅を「新たなビジネスを創発する拠点」へと変え、新たな収益確保を図る方針を発表した。 複数のビジョンが登場してややこしいが、鉄道を含むグループ全体の経営ビジョンを示すのが「変革2027」で、そのうち生活サービス事業の成長ビジョンが「NEXT10」、不動産事業のくらしづくりについて定めたのが「Beyond Station構想」という階層だ。
ただ、コロナ禍を経た「Beyond Station構想」は、駅中心の開発からマチナカへの展開を掲げた「NEXT10」から一歩進み、駅をエキナカ・マチナカ・オンラインに「つながる」空間と位置付け、オンラインショップ「JRE MALL」の商品を駅改札で受け取れるサービス、駅で健康診断やオンライン検診を受けられる「スマート健康ステーション」、通勤定期券利用者へのサブスクリプションサービス「JRE PASSPORT」などを提案している。 現時点ではいずれも試行錯誤の段階で、駅ビルなどとは異なり、経営にインパクトを与えるほどの効果は挙げていない。だが目的は、各サービスでいくらの利益を挙げるかではなく、利用者の生活にさまざまな接点を作り、JR東日本経済圏に組みこむことにある。 今後はSuicaを駅空間と駅商圏をつなぐデジタルプラットフォームと位置付け、顧客との接点を増やすことで新たなビジネス機会を創出する方向を明確化している。 ● 旧社宅のリノベーションや 跡地の再開発で賃貸物件を供給 「NEXT10」の特徴は、沿線における生活に密着した「まちづくり」への意欲だ。とくにジェイアール東日本都市開発が担当する住宅事業は、賃貸住宅管理戸数を2026年度までに2016年度比5倍となる3000戸とする意欲的な目標に掲げ、ターゲットを明確にした「提案型賃貸住宅」を次々に開発した。