「業務スーパー」創業者がなぜ「地熱発電」事業に? もう私利私欲は必要ないので…私財180億円を投じて毎年の発電所建設を目指すわけ
国内に1000以上の店舗を持つ「業務スーパー」創業者の沼田昭二氏(70)は、2016年に新たに立ち上げた会社「町おこしエネルギー」の経営者として、地熱発電をはじめとした再生可能エネルギー事業に挑んでいます。2024年3月には熊本県小国町で第1号となる地熱発電所が運転を開始し、今後は全国展開を視野に入れています。流通業界に革命を起こした手腕で、停滞が続く日本の地熱発電に突破口を開けるのでしょうか。沼田氏に話を聞きました。(ライター・編集者/小泉耕平) 【写真】これが自社開発した自走式の掘削機と巨大な汽水分離器
資源量世界3位でも日本の地熱発電が普及しない理由
2024年3月1日、熊本県小国町の山間部で、絶え間なく水蒸気の白煙を立ち上らせる地熱発電所が運転を開始しました。この「小国町おこしエネルギー地熱発電所」の設備容量は、県内最大級の約5MW。年間の発電電力量は、一般家庭約8000世帯分に相当します。 開発を手がけたのは、兵庫県加古川市に本社を置く社員15人(グループ全体では約60人)の「町おこしエネルギー」。会長兼社長の沼田昭二氏(70)は全国にフランチャイズで1000店舗以上を展開する「業務スーパー」を一代で築き上げた人物です。 沼田氏は業務スーパーを運営する神戸物産の経営を長男に任せ、2016年に故郷に近い加古川市で新会社・町おこしエネルギーを立ち上げました。この時、62歳。還暦を過ぎて異業種での新たな挑戦に踏み出した理由を、沼田氏はこう語ります。 「資源小国である日本は年間30兆円もの化石燃料を海外から輸入していて、貿易赤字の原因となっています。この問題を解決するには、資源の有無にかかわらずどの国でも平等に利用できる再生可能エネルギーが有効ですが、日本は再エネへの転換がスムーズに進んでいない。次世代のために何とかエネルギー自給率を高めたいという思いがありました」 沼田氏が目をつけたのが、地下深くからくみ上げた熱水を利用する地熱発電。火山国の日本は地熱資源量では世界3位とされていますが、地熱発電の設備容量は世界10位と開発が遅れ、全発電電力量の0.3%程度にとどまっています。発電量がほとんど変動しない優秀な電源のはずなのに、導入が進まないのには理由がありました。 「現地の調査を始めてから運転開始まで15年以上もかかる開発期間の長さが最大のネックでした。上場企業なら途中で経営者が何度も変わってしまうタイムスパンです。それに、調査のために地面を掘っても必ず地熱貯留層を掘り当てられるとは限りません。外れた場合はそれまで投資した数億円が無駄になりますから、株主からの批判を考えるとなかなか開発に手を出せないのです」