「業務スーパー」創業者がなぜ「地熱発電」事業に？ もう私利私欲は必要ないので…私財180億円を投じて毎年の発電所建設を目指すわけ
自走式のオリジナル掘削機が突破口に
沼田氏が考えた解決法は、地熱発電事業に「今までと別格のスピード感を持たせる」ことで開発期間を短くし、経費を圧縮すること。町おこしエネルギーはこの課題に取り組み、小国町の発電所は開発を始めてから約5年という異例の速さで運転開始までこぎつけました。 通常の3倍の速度を実現した裏には、数々の工夫がありました。 最大のブレークスルーは、地熱の調査のため地面にヒートホールと呼ばれる深さ1kmほどの穴を掘る自走式の掘削機を、自社オリジナルで開発したことです。業務スーパー時代に店舗の設計などに携わっていた社員が中心となり、1年半ほどの試行錯誤の末に完成させました。 「地熱発電所の候補地の多くは山の上にあって、途中の林道も荒れ果てているような場所が多いんです。従来は掘削機を大型のトレーラーで搬入するための道を整備し、現場で10階建てのビルくらいの高さのやぐらを組む必要がありました。 私たちが開発した掘削機はクローラー（無限軌道）で狭い林道にも入っていけて、やぐらがなくてもアームを伸ばして掘削ができるため、1台で作業が完結します。調査期間を大幅に短縮し、3億～5億円かかっていた費用も数千万円で済むようになりました」 スピードアップの工夫はほかにもあります。通常の地熱発電所は地形に合わせて一からオーダーメイドするのが通例となっていました。町おこしエネルギーは発電所の設計をパッケージ化して同じ規格の発電所を量産することで、時間と費用を大幅に削減できる仕組みを構築したのです。 「主要な部品はどの発電所でも一緒ですから、工場で一律につくったものを現地で組み立てる。建売住宅のユニット工法と同じやり方です。1パッケージが5MWで、地熱の量に応じて10MWの設備をつくりたければ同じものを2つ建設すればいい。従来は2～3年かかっていた設計期間を、このやり方で1カ月程度まで短縮できます」
業務スーパーで培ったイノベーションを起こす力
ビジネス上の課題を徹底的に分析し、斬新なイノベーションで道を切り開く手法は、沼田氏が業務スーパーの経営を通して培ったものです。 業務スーパーといえば、積み上げられた段ボールに入ったまま陳列された商品がおなじみ。あの光景も、倉庫の面積を節約して売り場面積の割合を増やし、面積あたりの利益を最大化するという徹底的なコストカット思考によって編み出されたものです。 ビジネスの鍵になる商品や設備の自社開発も以前からの十八番。たとえば業務スーパーの店舗内に設置された冷凍ケースは一般的なタイプよりも電気代を削減できる設計であるだけでなく、日本人の体格で取り出しやすく、かつ、狭い店舗にも設置できるサイズになっています。沼田氏が試行錯誤を重ねて完成させたものが、パッケージ化されて全店舗に設置されているのです。 「業務スーパーでの考え方をほとんどそのまま町おこしエネルギーにスライドさせたと言っても言い過ぎじゃないですね。頭は一つなので、あまりそこは成長していない」と笑う沼田氏。本社社員の約8割は業務スーパー時代からの部下で、事務所内には「ロス・無駄は神様に対しての裏切りと思う事」など、業務スーパー時代と同じ標語が掲げられていました。 実は、これまで国内で地熱発電の開発が停滞していたのには、制度的な事情も影響していると沼田氏は指摘します。 開発事業者が政府の補助金を得るためには地表探査、地下探査・評価といった過程ごとにその都度申請が必要で、書類作成や審査のための待機時間などに時間を要し、工期のさらなる長期化につながります。また、定められた方法通りに開発をおこなわないと補助金が下りないため、イノベーションが起こりにくい環境になっているというのです。 この点、町おこしエネルギーは政府の補助金を一切受けずに地熱発電を開発。沼田氏はこれまでに180億円以上の私財を投じてきたといいます。しかしそれは、ビジネスとしての“勝算”があってのことでした。 「小国町の地熱発電所はFITによる売電収入で1年間に14億円を生み出しますから、投資した分は15年ほどで回収できる計算になります。地熱発電所はつくるまでが大変ですが、運転までこぎつければ安定的に利益を生んでくれるのです」
