「業務スーパー」創業者がなぜ「地熱発電」事業に? もう私利私欲は必要ないので…私財180億円を投じて毎年の発電所建設を目指すわけ
目指すは1年に1発電所 全国展開も視野
沼田氏が次に目指すのは、これまでに編み出した手法を使って、全国に地熱発電所を建設していくことです。現在、小国町の第二発電所に加え、鹿児島県湧水町や北海道函館市でも開発を進行させています。今後はパートナー企業を募集することで、さらに拠点を増やしていくことを考えています。業務スーパーを急拡大させたのと同じフランチャイズ方式です。 「地下部分の掘削費用は全額町おこしエネルギーが負担し、パートナー企業には発電所の地上部分の建設費用を折半してもらいます。これまでネックになってきた初期投資のリスクをこちらが負担するので、参入しやすくなる。すでに10社以上の応募があります。1年ごとに1つの発電所を建設するペースが実現できればと考えています」 現在、全国各地でメガソーラーや風力発電所の建設に対して地元住民の反発を招く事例が相次いでいます。町おこしエネルギーも、地元との関係には細心の注意を払っているといいます。 「小国町の場合も、発電所の運営は現地に拠点を置く子会社がおこなっています。地域の雇用を生むとともに、現地で税金を納めるためです。地元の温泉組合に私たちも加入して、草刈りや看板や街灯の整備に協力するなど地域貢献にも力を入れています。とにかく、地域の方々と丁寧にお話をしていくことが大切。うちの社員が毎週のように現地に足を運んでいます」 社名に「町おこし」とある通り、沼田氏が会社を立ち上げた目的の一つが地方の活性化です。エネルギー自給率だけでなく食料自給率の向上も目指していて、北海道白糠町では太陽光パネルの周囲で羊を飼う営農放牧型の太陽光発電システム「ソーラーグレージング」を開発中。地熱発電もソーラーグレージングも、全国各地の耕作放棄地を利用して事業を拡大していく計画です。 「業務スーパーを急拡大できたのは、少子高齢化によって全国で空き店舗が増えていくことが2000年の事業開始時点で予測できていたからです。従来のやり方では立ちいかなくなった店舗に業務スーパーで新たな価値を上乗せすることで、復活させることができた。 同じように今後、農家の減少に伴って耕作放棄地や荒廃した農地は増えていきます。農業と発電を組み合わせて眠っていた土地を復活させることで、エネルギー・食料自給率の向上と地域活性化につなげていくことができる。大きな成長が見込める分野だと考えています」 沼田氏は今後の業界の発展に備え、北海道白糠町に2022年に開校した掘削技術専門学校の立ち上げにも関わり、学校法人の理事長に就任しています。技術者の高齢化で掘削技術の継承が危ぶまれる中、人材育成にも乗り出しているのです。 とても古希を迎えているとは思えない勢いで今も全国を飛び回っている沼田氏。事業にかける思いを、こう語りました。 「62歳でこの会社を起業したときは、人生の『折り返し地点』くらいの気持ちでした。あと10年くらいあれば、それなりの結果を出せると思っています。この年齢でもう私利私欲は必要ないので、あとは次世代のためになるものを作り上げたい。滅私奉公ですよ」
朝日新聞社