【海外試乗】蘇ったルノー5ターボ! EVだけど、これは乗ってみたい アルピーヌの新作、A290はどんなデキか?
乗ったら意外とフレンドリー!
2座ミドシップ・スポーツカーのA110に続くアルピーヌの新作は電気自動車のルノー5をベースとするハッチバック。その走りはいかなるものか。スペインのマヨルカ島のサーキットとワインディングでテストした。 【写真44枚】これはもうサンク・ターボの再来 電気自動車だけどこんなにカッコいいならぜひ乗ってみたい! ◆見た目はいかにもホットハッチだ! 21世紀に入る少し前からブランド名を封印し、“ルノー・スポール”として活動していたアルピーヌが、ミドシップ・スポーツカーのA110を旗印に復活したのが2016年。A290はそんな新生アルピーヌにとっての2番目のモデルとなる。 ただしA290はA110のような専用設計ではなく、しかも電気自動車だ。床下に電池を置きフロントの1基のモーターで前輪を駆動する5人乗りの5ドア・ハッチバック、ルノー5 Eテック・エレクトリック(以下サンク)がベース。先行したショー・カー、A290βは左右2基のモーターで1+2の3人乗りだったが、そこまで過激ではない。 とはいえ、A290の外観はかなりA290βと近しい。ひと目見て「これは、いかにもホットハッチだ!」と思ったくらいだ。かつてラリー車が施したテーピングを模した“×”の柄が入った個性的な追加ライトをはじめ、古風なイメージをとにかく強調している。フェンダーをはじめリア・ドアのパネルもサンクとは別モノで、1972年登場のFFの2ボックス・ハッチバック、R5をミドシップ化したルノー5ターボをイメージさせる造形も(エア・ダクトではなく凹凸のみなのが残念)、なんともオヤジ心をくすぐる。サンクに対する張り出しは片側で最大約2.5cmもあり、ブリスター・フェンダーの上へさらにオーバー・フェンダーを被せたような形状だが、不自然さはない。 メカニズム的にはサンクと同じくルノー傘下のアンペア社の三元系リチウムイオン・バッテリーに日産アリアと共有のモーターの組み合わせだ。最高出力はサンクに対し10kW増しで、ベーシック仕様の130kWと高性能仕様の160kWの2タイプがあるが、今回の試乗車のGTSは後者だ。ちなみに車両重量は欧州仕様カタログ値で1.5tを下回るから、EVとしてはかなり軽い。 ◆あくまでニュートラル スペック上の0-100km/h加速は6.4秒と俊足だが、走り出して分かったのは、その加速感は高性能EVにありがちな、後ろから蹴られるように飛び出して刺激をもたらすものではないこと。アクセレレーターの操作に対し、素直に反応するリニアリティと伸びやかさを重視している。 リニアリティといえば、A290の真骨頂はハンドリングだ。印象的だったのはふたつ。ひとつは微少舵角を与えたときの反応の自然さで、敏感すぎることもなければ遅れもなく、ドライバーの気持ちとシンクロするかのようにスッと曲がる。もうひとつはオン・ザ・レール感覚。峠道の深く回り込むようなコーナーでも、外側へ膨らむことなく狙ったラインをきれいにトレースし、旋回中の舵角の修正を求めない。4輪操舵を備えたメガーヌRSなどはドライバーの意思でオーバーステアへと持ち込むこともできたが、A290はそこまで玄人向け仕立てではなく、あくまでニュートラルな感覚だ。 広がったトレッド、A290専用の油圧式バンプストッパーや追加された前後スタビライザーなどの効果もあるだろうが、モーターの出力制御がハンドリングにも効いている、と思った。ある程度のスキルを持つドライバーであればスポーツ走行ではアクセレレーターの微妙なオン/オフでコーナリング・ラインをコントロールするが、A290のナチュラルなモーター特性は、その調整がごく自然にできるのだ。 見た目は少々ヤンチャなA290の試乗で感じたのは、アルピーヌの“多様化”だ。すでにA290に続くクーペSUVと、完全な電気自動車となるA110の後継モデルも、生産は決定しているという。メガーヌなどルノー・スポール時代のホットハッチや現行のA110が本格スポーツ・シューズだとすれば、A290は古の名作デザインを再現しつつ、最新技術を盛り込んだピタリとフィットするスニーカーという感じだろうか。あくまで日常域でさらりと乗るようなキャラクターであり、同じホットハッチでもサーキットを本拠地としていたかつての“ルノー・スポール”とはベクトルは異なる。 A290は、フレンドリーなのである。 文=工藤貴宏 写真=アルピーヌ ■アルピーヌA290 GTS 駆動方式 フロント1モーター前輪駆動 全長×全幅×全高 3997×1823×1512mm ホイールベース 2534mm 最小回転半径 5.1m 車両重量 1479kg バッテリー容量 52kWh 航続距離(WLTP) 364km 最高出力 160kW 最大トルク 300Nm トランスミッション 1段AT サスペンション(前) マクファーソンストラット+エア (後) マルチリンク+コイル ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク タイヤ(前後) 225/40ZR19 車両本体価格 未定 (ENGINE2025年2・3月号)
ENGINE編集部