「3つの改革」で売上5倍に 茅ヶ崎の町工場の“リアル下町ロケット”の奇跡 モノづくり大国ニッポンが復活
2つ目の改革は「ブランディングの強化」です。「いくら品質がよくても、知られていない技術は誰も使ってくれない。よい技術があれば、知られないと」と大坪さんは力を込めます。 「正確にはCI(コーポレート・アイデンティティ)ですが、自社の企業文化の発信に力を入れられるかどうかが、じつは大手と中小の圧倒的な違いになっていると思います」 そこで、まずは「研究開発型工場」というキャッチフレーズを打ち出して、由紀精密をアピールすることにしました。知人のデザイナーに依頼し、会社のロゴマークやウェブサイトも一新しました。段ボール、名刺、封筒のデザインも改め、由紀精密のブランドを一目で顧客からわかるようにしました。 当時の町工場にはめずらしい、凝った自社サイトには、多くの新規問い合わせが来るようになりました。人工衛星専業のベンチャー「アクセルスペース」から超小型衛星用の部品製造についての相談が舞い込んだのも、このウェブサイトがきっかけでした。
そして、もうひとつの重要な改革が「驚かせる営業」です。やみくもに飛び込み営業をしても、そう簡単に顧客が増えるわけではありません。そこで大坪さんが意識したのは、1社1社の営業先を徹底的に調べて、製品提案のプレゼン資料を作り込むことでした。 「相手先の製品カタログなどをすべて読み込んで、とにかく頭に叩き込んで行きました。営業で来た人間が型番からなにからすべてわかっている、という状態です。これをやってくれるところがなくて困っていたんだ、という案件もよく受注しました。そういうことで驚きを与えるというか、感動を与えるというか。営業先を“驚かせに行く”というのがテーマでした」
JAXAと「こうのとり」関連部品の共同開発も
航空宇宙産業などの先端分野に狙いを定めた由紀精密にとって、技術力をアピールする大きな場のひとつが展示会への出展でした。ここでも大坪さんは「驚き」を用意することを徹底しました。 2008年に初めて出展した航空宇宙産業展は、まさに手探り状態。自分たちの技術が具体的にどう当てはまるかもわからず、設計製造のメンバーと考えを巡らせて、とにかく一目で技術力がわかる難削材の複雑な加工サンプルを用意して臨んだところ、JAXA(宇宙航空研究開発機構)からテストパーツを受注するきっかけになりました。