「3つの改革」で売上5倍に 茅ヶ崎の町工場の“リアル下町ロケット”の奇跡 モノづくり大国ニッポンが復活
ものづくり大国と呼ばれた日本で、静かな危機が広がっています。戦後日本の高度成長を支えてきた中小企業は高齢化が進み、2025年には経営者が70歳以上の企業が約245万社になると予測されています。うち約半数は後継者不足で、廃業・倒産の危機にあります。 そのなかで、経営危機に瀕していた金属部品の切削加工会社「由紀精密」(神奈川県茅ヶ崎市)を親から引き継ぎ、奇跡の回復を実現させたのが大坪正人さんです。「リアル下町ロケット」と呼ばれたV字回復の歩みは、どのようなものだったのでしょうか。そして大坪さんがいま、日本のものづくり企業の復活のために取り組んでいることとは――。
【大坪正人(おおつぼ・まさと)】 1975年神奈川県生まれ。 1998年東京大学工学部産業機械工学科卒業。2000年東京大学大学院工学系研究科産業機械工学専攻修了。 同年、3次元プリンターサービスのインクス(現ソライズ)に入社。高速金型部門で開発を担当し、世界最高速で金型を作る工場を立ち上げる。 06年、祖父が創業した由紀精密に常務取締役として入社。13年代表取締役社長に就任(現在は代表取締役)。 経営危機に陥っていた由紀精密を、電気電子業界から航空宇宙業界や医療関連業界にビジネス転換し、V字回復を実現した。17年10月由紀ホールディングスを設立し、代表取締役社長に就任(現職)。
“技術力”と“遊び心”が詰まった精密コマ
茅ヶ崎といえば、海。サーフィン、ヨットなどのマリンレジャーが盛んで、言わずと知れた日本のミュージックシーンのレジェンド・桑田佳祐の故郷。サザンオールスターズの曲にもたびたび登場する街です。 そんな湘南の街のイメージとはちょっと違う建物が、JR相模線・北茅ヶ崎駅近くの工業団地にあります。由紀精密の本社工場です。 1961年に創業した由紀精密は、金属の精密切削加工を得意とする、従業員40人に満たない小さな町工場。もっとも、その実力は折り紙付きで、航空宇宙分野や医療機器分野の最先端製品で必要となる高品質・高付加価値の部品製造で、大きく業績を伸ばしているのです。