「3つの改革」で売上5倍に 茅ヶ崎の町工場の“リアル下町ロケット”の奇跡 モノづくり大国ニッポンが復活
所せましと製造機械が並ぶ工場内には、機械油の微かな香りが漂っていて、意外にも昔ながらの雰囲気が残っています。たとえば、仕上げのための卓上旋盤は年季が入っていますが、ていねいにメンテナンスされていて現役で稼働しています。さらに、「金属精密切削加工」というと昔気質の頑固な職人集団を想像するところですが、作業場には多くの女性の社員たちが。大坪さんは、その理由をこう話します。 「由紀精密で製造している製品は、ミクロンの単位の調整が必要な製品がほとんどです。髪の毛が50~80ミクロンなので、その10分の1の世界。小さな製品が多いので、男女関係なく手先の器用な人が向いているんですよ」 そんな由紀精密の現在の躍進を説明するのに、象徴的な製品があります。まるで止まっているかのように静かに3分間以上、回り続ける直径10ミリ、高さ15ミリの小さな金属製のコマ――。Amazonの商品ページには、「非常に美しい」「技術の結集にアッパレ」といったコメントが並びます。 ステンレスの棒材から削り出したこの精密なコマ「SEIMITSU COMA」に、由紀精密の“技術力”と“遊び心”が詰まっているのです。
優れた要素技術を持つ町工場の連合体
由紀精密が注目される理由は、製品の品質だけにとどまりません。大坪さんは、2017年に日本のものづくり企業をグループ化した持ち株会社「由紀ホールディングス」を立ち上げました。ニッチではあっても世界レベルで高い技術を持つ町工場の連合体をつくったのです。大坪さんは言います。 「世界のマーケットは、これからも大きくなっていくはずです。しかし、日本は人口が減るので、経済規模は小さくなるかもしれません。国内市場が小さくなれば、その技術が消えるかもしれない。日本には、世界でトップを走るすごい要素技術を持った中小企業がたくさんあるのに、近い将来に『あの会社が残っていたら、もっと素晴らしい製品が作れたのに』ということに、なりたくないんです」