7年間のMotoGPフル参戦 中上貴晶選手がたどり着いた、世界の“頂点”で見た光景│インタビュー
「敵わない。」中上選手が世界の頂点で見たもの
中上選手は、2021年アラゴンGPでは日本人ライダーとして初めて200戦出走を達成し、2023年タイGPでは、日本人ライダーとしてMotoGPクラスで初となる100戦目を達成しています。最高峰クラスでは7シーズンを戦い続けてきました。
そんな自分自身のキャリアをどう思うのでしょうか。「世界選手権の最高峰クラスで、何を成し遂げてきたと自分を評価しますか?」と、質問しました。 中上選手の答えは、とても印象的なものでした。 「MotoGPクラスにステップアップして、戦って、年数が増えていくにつれて、同じホンダだったマルク(・マルケス選手。2025年はドゥカティのファクトリーライダー)が常にいて、正直、こいつには敵わないな、と思いましたね」 その言葉は、マルク・マルケスという、最高峰クラスで6度のチャンピオンに輝き、今も最強の1人であるライダーの実力を認めるものだったのです。 「いままでは、極端に言えば自分が一番だ、という思いがあったので這い上がってきました。だからこそ、続けられてきたと思います。MotoGPライダーは22名しかいません。その22名、全員がすごいライダーです。でも、その頂点の頂点って、やっぱり違うんですよ」 「それを間近で、ホンダでずっと長く見てきて、“ああ、僕は世界一にはなれないな”と思いましたね。レベルが違っていて。技術もそうだし、メンタルや天性、センサー、恐怖心だったりね」 そして、中上選手は、はっきりとこう言い切りました。 「敵わない。無理です!」 「僕はMotoGPライダー22名のなかで、総合点でトップ10には入っているライダーだと思っています。でも、1位にはなれない。それは、この世界で頂点になりたくて頑張ってきて、ここまで来て、見られた景色なんです。だからこそ、軽い気持ちじゃない。例えば同じバイク、同じ環境、同じ状況だったとしても、この人と勝負したら勝てないな、と思いました」 「すごいと言うか、謎なんです。なぜ、あんなに能力があるのかわからない。だからこそ、たぶん超えられないですね。ここにきて、さらなる上を見ました」 眠り続けていた言葉があふれるように、中上選手はマルケス選手について語り続けます。世界の頂点の舞台で戦ってきたライダーの言葉として、それらはずっしりと重みがありました。中上選手が「成し遂げてきたもの」があるからこその、言葉です。 「“2輪最高峰で世界一になる!”と決めて、ここまで上がってきました。極めてきたからこそ、その頂点に行くとなると、プラスアルファで天性とはまた違ったものを持っていないと、世界をとるのは難しいんだなと、目で見て感じられたのは良かったです。でも、全然ネガティブじゃないんですよ。言葉だけだと“このライダーには敵いません”ってネガティブに聞こえるかもしれないですけどね。僕はそう思ったし、そこは変わらないです」 おそらく、数カ月前──例えば2024年シーズンの序盤に同じ質問をしたとしても、この答えは聞けなかったでしょう。例え心の奥底でそう考えていたとしても、当時、中上選手はマルケス選手と争うライダーだったからです。 中上選手の表情と言葉は、すでに、戦うところから立つ場所を移そうとしている心情を持った人の、それのように見えました。少しずつ、中上選手自身もわからないほど小さなところで、最後のレースに向かっていたのかもしれません。