7年間のMotoGPフル参戦 中上貴晶選手がたどり着いた、世界の“頂点”で見た光景│インタビュー
最後のレース後に、自分にかけた言葉
インタビューから3日後の日曜日、中上選手は決勝レースを17位で終え、チェッカーを受けました。レース後の囲み取材では、日本人だけではなく、様々な国のジャーナリストたちが取り囲んでいました。
「フル参戦ライダーとして最後のレースを終えて今、自分にどう声をかけますか?」と、尋ねます。 「よくここまで頑張れた、という気持ちもあるし、その反面、もうちょっとできたんじゃないか、もうちょっと結果を残したかった、という気持ちもあります。すごく矛盾しているんですけどね」 「自分にかける言葉って難しいですけど、これまでレースがあっての生活が長かった。どん底に落ちて、何度も這い上がって来たりもしました。だから、休みたい、こういう生活から一回離れたい、という気持ちもあったんです。モチベーションが無いわけじゃないんですけどね」 「お疲れ様、という気持ちが一番かな。でも、これで終わりではないので。だからこそ、難しいですね(笑)」 囲み取材を終えた中上選手は、拍手で送られながらメディアセンターを後にしました。 木曜日のインタビューの間も、レースウイークの間も、ほとんど変わりのない様子でした。けれど、インタビューの答えなど、わずかに「いつもとは違う」ものが混じってもいました。それはゆっくりと、けれど確かに、中上選手の中に根を下ろしたもののように感じられました。 だから、と言って良いのでしょう。激しい戦いの舞台にそっと幕を下ろした中上選手がまとっていた空気は、穏やかで、晴れやかでした。
「長かったかもしれない」と語る、中上貴晶選手のレース人生
■中上貴晶(なかがみたかあき) 1992年2月9日生まれ(千葉県)
2004年(12歳) ロードレースデビュー 2006年(14歳) 全日本ロードレース選手権GP125クラスで全戦優勝 最年少チャンピオンを獲得 2007年(15歳) CEV Bucklerに参戦。MotoGP125ccクラス最終戦バレンシアGP参戦 2008年(16歳) MotoGP125ccクラスにフル参戦 2009年(17歳) MotoGP125ccクラスにフル参戦 2010年(18歳) 全日本ロードレース選手権ST600クラスに参戦 2011年(19歳) 全日本ロードレース選手権J-GP2クラスに参戦 チャンピオン獲得 2012年(20歳) Moto2クラスにフル参戦 2018年(26歳) MotoGPクラスにステップアップ 2021年(29歳) アラゴンGPで、日本人ライダーでは最多のロードレース世界選手権として通算200戦出走を達成 2023年(31歳) タイGPで、日本人ライダーとして初となるMotoGPクラス100戦目を達成 2024年(32歳) 最終戦ソリダリティGPをもって、フル参戦ライダーを引退 2025年以降はHRCの開発ライダーとなる
伊藤英里