なぜ「寝だめ」は意味がないのか…意外と知らない「睡眠のしくみ」
私たちはなぜ眠り、起きるのか? 長い間、生物は「脳を休めるために眠る」と考えられてきたが、本当なのだろうか。 【写真】考えたことがない、「脳がなくても眠る」という衝撃の事実…! 「脳をもたない生物ヒドラも眠る」という新発見で世界を驚かせた気鋭の研究者がはなつ極上のサイエンスミステリー『睡眠の起源』では、自身の経験と睡眠の生物学史を交えながら「睡眠と意識の謎」に迫っている。 (*本記事は金谷啓之『睡眠の起源』から抜粋・再編集したものです)
なぜ寝だめは意味がないのか
睡眠が不足したときに、眠らせようと抗う力──それを睡眠科学では、「睡眠圧」と表現することがある。睡眠は、この圧によって、ホメオスタシスの性質をもつ。 私たちが「睡眠圧」を実感するのは、なにも夜更かしをしたときだけではない。毎日規則正しく生活をしていても、「睡眠圧」は常に高まっている。私たちは昼間起きている間に「睡眠圧」が徐々に高まっていき、眠気を感じるようになり(眠らせようとする力がはたらき)、夜眠りに落ちる。そして眠っている間に「睡眠圧」が解消されるのだ。「睡眠圧」は、起きている代償として借金のように積み上がっていき、眠ることで返済される。 よく「寝だめは意味がない」と言われることがある。実際、ヒトを対象にした調査でも、たくさん眠ったからといって、その後に眠らなくても済むわけではないことが示されている。もし寝だめすることができるのなら、なんとも便利な話だが、なぜ無意味なのか。「睡眠圧」によるホメオスタシスをもとに考えると、納得できる。 「睡眠圧」は、起きている間に積み上がり、眠ることで解消される。借金が溜まり、返済しているのだが、不便なことに、貯蓄ができない。前もってたくさん眠った(寝だめをした)として、それ以前に溜まっていた借金はゼロになるかもしれないが、たくさん眠ったことで何かがチャージされるわけではない。いくら寝だめをしても、その後に起きることで、また借金が積み上がるのだ。貯蓄が許されず、起きている代償として借金を背負わされ、眠って返済する。私たちは、そんな自転車操業を、毎日くり返しているのだ。 ここまで紹介してきた「睡眠圧」の実体とは何なのか?単なる概念に過ぎないのか、それとも「睡眠圧」の実体を成す何らかの物質が存在するのか。