辰吉寿以輝が日本5位ランカーに4回TKO勝利で陣営は来年タイトル挑戦言明もカリスマ父は「まだあかん」と待った!
実は、前へ出続けた中村も、この辰吉のしたたかな戦略に気づいていた。 「こちらの圧で下がったというより下がりながら狙っていた。うまいなあと思った」 4ラウンド。 「判定決着は嫌なので。”(キャンバスに)のばしてやろう”と思った」 辰吉はロープを背負いながらも的確な左ジャブ、左ボディ、ワンツースリーフォーまでのコンビネーションを重ねていくと中村の流血がさらに激しくなった。レフェリーは試合を中断させ2回目のドクターチェックを要求。ドクターはクビを振って試合続行不能と進言し辰吉にTKO勝利が宣告された。辰吉は両手を突き上げたが、大喜びといった感情は出さなかった。 リング上のフラッシュインタビュー。 「倒してやろうとリングに上がった。気持ちの強い選手で、今日勝ったことが力にはなる」 初の上位ランカーとなる中村へのリスペクトを忘れなかった。 実は、前の試合で痛めた左拳の状態は万全ではなかった。ヒアルロン酸の注射の処置を一度だけして試合に臨んでいた。 その中でテーマにしたのは「力まないボクシング」。「細かいパンチを練習してきたけど、大振りになった」と辰吉は言うが、コンパクトにショートにまとめられたパンチは成長点だろう。 試合中、辰吉ファミリーで最前列に陣取った母・るみさんは、ずっと目をつぶり下を向いていた。寿以輝の長女で孫の莉羽ちゃん(2歳)が「じゅいきー!」と応援していた声のトーンと、会場の雰囲気で「勝っている」と感じたという。 「寿以輝は、チキンのところもあるけど気だけは強い。相手が出てきたら、受けて立ち殴り合うところは父譲りかも。ラバナレスの第2戦がそうだった。ずっと足を使う練習をしていたが、ゴングが鳴ったら、それを忘れて殴り合っていたからね(笑)」 1993年のビクトル・ラバナレス(メキシコ)との再戦を前に辰吉丈一郎は、当時の大久保淳一トレーナーの指導で「足を使う作戦」を準備していたが、ゴングが鳴ると本能に火がつき、ステップワークは使わず真っ向から殴り合った。眼疾休養の後の、この再戦は僅差の判定勝利で、劇的なベルト奪回となったが、そのときの姿が、1ラウンドから迎え撃って殴り合いをした次男の姿に重なったというのである。 関西のボクシング”聖地”を埋めたファンは興奮していた。このファイティングスピリットこそが、父から授かった天賦の才能であり、プロとしてなくてはならない要素。辰吉ジュニアの名に恥じないファンの心を揺さぶるボクサーである。 中村は、右目上に絆創膏を貼り、腫れあがった顔で辰吉陣営に挨拶にきた。 「左フックは見えなかった。ボクシングはシャープでした。大振りではなく、スマートに打ってくる。確かにパンチ力は、一撃で立ち上がれないものじゃないが、積み重ねて効かせてくるパンチ。ビッグネームを食ってやろうと思ったがうまくいかなかった」 完敗を認めた。 現役時代に元3階級制覇王者の長谷川穂積と激闘を演じた鳥海純会長は「強かった。予想よりディフェンスもできていた」と賞賛した上で、「まだ若いしタイトルに挑戦して失うものはない。今日は彼にとって出世試合。ここに甘んじているボクサーではない。早くタイトル挑戦すればいいと思う」とエールを送った。