〈解説〉老化は44歳と60歳で急に進むと判明、何がどう変わる? 研究者がすすめる対策は
老化の影響を防ぐために気を付けるべきこととは、それぞれの年代に違いが
私たちはずっと、老化は一定のペースで徐々に進むものと信じていた。しかし、2024年8月14日付けで学術誌「Nature Aging」に米スタンフォード大学の科学者たちが発表した論文で、老化は40代半ばと60代前半に急激に進むことが明らかになった。 判定画像:老化の度合いはやはり顔に表れる 皮膚のシワやたるみ、白髪、筋肉痛や関節痛、ウイルスへの感染しやすさなどの老化の兆候は、あるとき突然現れるように見えるが、その理由は、この2つの時期に起こる分子的な変化によって説明できるかもしれない。 「この研究は、現在の老化モデルに真っ向から反抗しているように見えます。特に『エピジェネティックな時計(DNAの化学的な修飾の度合いが生物学的年齢の指標となること)』や、年齢に伴う血糖値の上昇などは、緩やかで線形的(直線的)に変化するとされています」と、分子遺伝学者で長寿研究者である米ハーバード大学医学大学院教授デビッド・シンクレア氏は言う。氏は今回の研究に関わっていない。 しかし、近年の他の研究でも、今回の発見と同じように特定の年代で急激な老化が進むことが示されている。 「これまでの研究は老化が非線形な(階段状に変化する)プロセスであることを総体的に示していて」、自分たちの研究はそれらに基づいていると、今回の論文の筆頭著者であるスタンフォード大学の微生物叢(そう)研究者のシャオタオ・シェン氏も話す。 40代と60代で老化が急に進むことがわかったからといって、これらの年齢になることをむやみに恐れる必要はない。私たちがいつ、どのように老化するかを理解することは、老化がもたらす最も望ましくない影響のいくつかを予防したり備えたりすることにつながるからだ。
分子的な変化が及ぼす影響
スタンフォード大学の研究チームは、約2年にわたり、25歳から75歳までのさまざまな人種の参加者108人から3~6カ月ごとに血液、大便、皮膚・鼻腔・口腔スワブ(ぬぐい液)を採取して分析し、その分子的な活性を測定した。 研究者らは13万5000種類以上に及ぶ分子(代謝産物、脂質、タンパク質、RNAなど)や微生物を調べた。それらは、免疫系の健康や、心血管系の機能、代謝、腎機能、筋肉や皮膚の構造に関連することが知られているものだ。 参加者の検体からは、合計2460億ものデータ点(バイオマーカー)が得られた。「私たちは、分子的・生化学的な変化や混乱が最も起こりやすい年代を探しました」と、論文の最終著者で、スタンフォード大学医学大学院遺伝学科長であるマイケル・スナイダー氏は説明する。 その結果、81%の分子が、線形的な老化モデルで予想されるような連続的な変化を示さず、44歳ごろと60歳ごろに大きく変化していることがわかった。 44歳ごろの変化は、代謝にかかわる細胞や、脂肪組織タンパク質、皮膚や筋肉の構造にかかわる結合組織タンパク質などで観察された。それぞれ、加齢とともにカフェインやアルコールの代謝がしにくくなること、中年期にコレステロール値が高くなったり予想外に体重が増加したりすること、皮膚がたるんだりシワができたり、筋肉の損傷が起こりやすくなったりすることの説明となる。 60歳ごろでは、同じような分子的な変化がさらに観察されるほか、腎機能や免疫系の健康にかかわる分子にも顕著な変化が見られた。スナイダー氏は、高齢者が新型コロナウイルス感染症などにかかりやすい理由や、がんの罹患率や腎臓の問題や心血管系障害が60代から急増する理由の説明になると言う。 ハーバード大学医学大学院の外科准教授で、米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの形成外科医であるサミュエル・リン氏は、44歳ごろに突然起こる分子的な変化は、60代でさらに悪化する可能性があると言い、それぞれの時期に、組織に弾力を与えるコラーゲンやエラスチンが作られる量の減少、メラニンの減少、皮膚の質や毛髪の色や量に影響を及ぼすホルモンの変化など、目に見える変化が起こると説明する。 「こうした目に見える変化は、体内で起きている分子や微生物叢の変化の直接的な結果なのです」とリン氏は言う。氏は今回の研究に関わっていない。全身の微生物叢の変化は炎症も促し、炎症は多くの加齢にかかわる疾患や慢性疾患の要因になると氏は指摘する。