JR佐賀駅の「佐賀之書店」オープン1年 “カリスマ書店員”が発揮する実店舗の強み
JR佐賀駅(佐賀市)構内の「佐賀之書店」が3日にオープンから1周年を迎えた。店長は、1日に4、5人から本選びの相談を受ける“カリスマ書店員”の本間悠さんだ。「0歳から100歳まで楽しめる本屋さん」を目指して自ら選書も手がけるほか、著者と触れ合えるイベントを催すなど交流の場を設けている。 【写真】“カリスマ書店員”の本間悠さん 生まれ育った北海道室蘭市で、祖父母宅にあった小説やマンガを読んで育った。幼稚園時代のお気に入りは、西村京太郎さんや山村美紗さんのミステリー小説。知らない漢字や単語を想像力で補い、小説の舞台の京都などに思いをはせた。 結婚、妊娠を機に大手企業を退職し、夫の転勤のため2009年から佐賀で暮らす。16年から佐賀市内の書店でパートとして働き始めると頭角を現した。売り場の飾り付けを頼まれ、何の気なしに引き受けると絶賛された。書店のディスプレーコンテストで全国1位を獲得。交流サイト(SNS)で有名人となった。 自身が薦めたい本を表彰する「ほんま大賞」も18年に始めた。初回は瀬尾まいこさんの「そして、バトンは渡された」を選び、SNSで集めた全国の書店員の感想をフリーペーパーにまとめて配った。同作品は翌年の本屋大賞に選ばれた。 本間さんの取り組みは話題になり、瀬尾さんや池井戸潤さんら作家も次々と来店。直木賞作家の今村翔吾さんとも知り合った。 今村さんは、20年に佐賀駅構内にあった書店が閉店したことを憂えていた。街の中心部の書店再興を志し、店長として白羽の矢を立てたのが本間さんだった。「本屋を一から作らないか」。今村さんの呼びかけに本間さんは即快諾した。 「佐賀之書店」は100平方メートル弱の店内に1万5000冊が並ぶ。広くはないが、本間さんの工夫が詰まっている。子どもが気軽に入れるようにと、絵本や児童書を手前に配置。「ここにあなたたちの本があるよ、と呼びかけているつもり」 自身が子どもの頃は近くに書店がなく、成長して札幌に出て「こんな場所があるのか」と驚いた経験がある。「子どもには書店を通していろんな世界があると知ってもらいたい。それだけに彼らの人生を作る責任の重さもすごく感じる」 取次会社が自動的に送ってくる本の他、年間200冊以上読んだ中から選んだ本も発注する。割合は「6対4」ほど。取次に全て任せると、佐賀ゆかりの本なのに1冊も入ってこないこともあるからだという。 「何か面白い本ない?」。来店客から気さくに声をかけられることもしばしば。普段読むジャンル、今の気分などを丁寧に聞き取って紹介する。本間さんの選択眼を信頼して毎月訪れる人もいるという。「子どもだけでなく大人も夢を膨らませられる本屋さんでありたい」。全国で書店が減る中、実店舗の強みを発揮していく。 (田中早紀)