金メダリストで2児の母・松本薫、「弱みを見せたら、足元をすくわれる」「目が合うママ友だちはみんな敵」と思っていた
距離をつめてくるママ友だちは、本能的に敵だと思っていた
松本さんは、2019年に現役を引退しましたが、引退後も勝負の世界で染みついた感覚が抜けなかったと言います。それはママ友だちとの関係にも影響が。 ――そうしたアスリートとしての考え方は、抜けないものなのでしょうか。 松本 私が、徹底して教えられたことの1つがドーピング違反についてです。「飲み物やお菓子などをもらっても、絶対口にしないこと」と徹底的に教えられました。そうした指導がすっかり染みついていて、ママ友だちに「ハロウィンのお菓子作ったから食べて」なんて言われると、「変な薬入っていない?」「ドーピングで引っかからない?」とつい思ってしまって。 アスリートとしての心構えが染みついているんです。 ――ママ友だちとのつき合いなどでとまどったことはありますか。 松本 最初のころ、私はママ友だちはみんな敵だと思っていたんです。これは勝負の世界に長くいた経験から来るものです。 まずはママ友だちの距離感のつめ方に警戒しました。「寒いよね~」「衣替えした?」など、たわいもない話をしながら無防備に近づいてくることに驚きました。近づいたり、目を合わせてくるママ友だちは、みんな敵だと勝手に思っていました。油断できないという感じです。 アスリートの世界は、たとえばジュニアで招集されても、どんどん振るいにかけて落とされていくんです。明日はわが身です。そういう環境で育ってきたので、気がつけばまわりの人はみんなライバルと思うようになってしまっていました。その感覚が、いつまでも抜けなかったんです。 でも今は、みんな敵なんて思っていません。「みんないい人なんだね~。実は私、みんなのこと敵だと思っていたんだ」と話したら、ママ友だちにゲラゲラ笑われたこともあります。 ――松本さんにとっては、現役時代と比べると今の生活は別世界という感じでしょうか。 松本 子どもが生まれて、自分1人では乗り越えられないことがあるとわかり「助けて」「手伝って」「教えて」と言えるようになってから、世界がガラリと変わりました。 もともと負けず嫌いな性格で「自分の弱さを出すと、足元をすくわれる!」「弱い自分なんて出しちゃいけない!」とずっと思っていたので。 でも「助けて」「手伝って」「教えて」と言えるようになってから、「世の中ってこんなに生きやすいんだ!」と思えたんです。 今では、子どもの具合が悪くて気になる様子があると、ママ友だちや隣のおうちの人に「こういうことってあった?」と聞いたり、ちょっと子どもを見ていてほしいときにお願いしたりしています。 ――ほかに子育てをしていて気づいたことはありますか? 松本 哺乳びんが減量中に便利だ、ということです(笑)。長女が赤ちゃんのとき「哺乳びんって、どんな感じで飲めるんだろう?」と疑問に思い、試したんです。そしたら、少しずつ水が出てきて、減量のときにぴったりでした! 現役時代は減量はつきものです。そのとき水分補給はゼロにはできないけれど、難しいんです。ペットボトルで水を飲むと、飲み過ぎてしまうこともありました。でも哺乳びんだと、点滴のように少量ずつゆっくり飲めるので、現役時代は、娘のお下がりの哺乳びんを使って、家で水分補給していました。乳首のサイズが「L」だと出すぎてしまうので「S」を使っていましたね。