自民党総裁選での経済政策論争⑧:賃上げ
岸田政権の「構造的賃上げ」を引き継げ
まもなく退任する岸田首相は、自らの経済政策の成果の一つとして、賃上げを挙げた。自民党総裁選の各候補も、賃上げの継続を支持する姿勢である。国民もそれを望んでいるということだろう。 ただし、賃上げを達成する手法には、候補者の間でばらつきがある。税制上の措置で賃上げを促す考えと、労働者の生産性向上を促す労働市場の改革を通じて賃上げを引き出す考えとがある。岸田政権の賃上げ策は、企業への働きかけや賃上げ減税を通じたものもあったが、「構造的賃上げ」を掲げ、(実質)賃金が自然と上昇する経済環境を作り出すことも目指してきた。「三位一体の労働市場改革」を通じて、労働生産性を高め、実質賃金上昇率の向上につなげようとしたのである。新政権も、岸田政権の「構造的賃上げ」という考えを引き継いでほしい。
税優遇措置、公的セクターの賃上げ、労働市場改革
加藤氏は、自身が掲げる「国民の所得倍増」の具体策として、賃上げした企業への優遇税制を拡充し、税額控除率を最大で賃上げ分の5割に引き上げる考えを示している。さらに、医療、介護、保育などの公的分野について、「少なくとも5%を超える賃上げを実現する」と語った。高市氏も、「賃上げする企業の法人税を軽減する税制を抜本的に拡充する」と発言している。 他方で加藤氏は、「教職員、保育士、医療介護福祉職員など公的セクターで働く方々の賃上げ、労務費の転嫁、また中小企業の支援など賃上げにつながる政策、これを徹底する」と、別の側面から賃上げを促す施策も掲げている。同様の提案は、小林氏からもなされている。「国が民間に賃上げを要請するのであれば、まず国がやればいい。保育、介護、医療や看護、こうしたセクターで働く人たち、若い方々もいる。国が物価上昇率を超えるプラスアルファを上乗せして処遇改善する制度を導入する」と発言している。公的セクターでの賃上げは、岸田政権も推進してきたものだ。 また加藤氏は、「リスキリング(学び直し)をすることによって給与を上げていく」と「構造的賃上げ」に沿った考えも示している。河野氏も、「雇用の流動性が高まれば、賃金が上がっていく」と述べた。茂木氏も、「労働移動は極めて重要だ。一人ひとりがもっと活躍でき、自分の才能を伸ばせ、やりがいを感じ、より高い報酬が得られる環境を整えることが重要だ」としている。これらは、「構造的賃上げ」という考えに沿うものだ。