自民党総裁選での経済政策論争⑧:賃上げ
分配を変化させるだけの賃上げのみを目指す政策は望ましくない
労働生産性を高め、その結果として(実質)賃金上昇率が高まること、つまり「構造的賃上げ」を目指すことが望ましい。 他方、(名目)賃金を政策目標に据え、それに働きかけて賃上げのみを目指す政策は問題があるのではないか。現在見られている賃金上昇率の上振れは、物価上昇への遅れをとり戻す正常化の一環と言える。賃金だけを高める政策を経済政策の柱に据え、それを進めていけば、いずれは実質賃金と労働分配率の過度の上昇が企業収益を損ね、経済環境を悪化させてしまうだろう。 賃上げはパイを切り分ける比率、いわゆる分配を変化させるだけであり、経済(パイ)全体を拡大させるものではない点を理解すべきだ。それでは、持続的な国民生活の改善にはつながらない。 新政権は、(実質)賃金が結果として高まるよう、労働生産性の上昇など経済の潜在力を高め、経済(パイ)全体を拡大させる成長戦略を、是非経済政策の柱に据えて欲しい(コラム「自民党総裁選告示:新政権には日本経済の潜在力向上に資する経済政策の推進を」、2024年9月12日)。 (参考資料) 「自民党総裁選「雇用・働き方」発言を追う」、2024年9月21日、日本経済新聞電子版 「高市氏「賃上げ企業に減税」、小泉氏「起業応援税制を」」、2024年9月21日、日本経済新聞電子版 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英