「自分のことで精一杯で、気を遣えないんです」――誰かと一緒にいるよりは一人がいい、天海祐希の境地
栄枯盛衰が常の芸能界で、長年主役の座を保つのは並大抵のことではない。天海祐希(54)は、トップスターとしてずっと先頭を走り続けている。生きがいも趣味も、芝居。“真ん中に立つ者”としての責任を背負いながら、「まだできないことばかり。満足したら終わり」だと語る。仕事一筋の国民的俳優が今、一番大切にしているものとは何か。一人で生きる覚悟、その先に見据えるものとは。(取材・文:山野井春絵/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース オリジナル特集編集部)
身の回りの幸せって、追い求めるほどに遠くなっていくような気がします
コロナ禍以前に撮影され、公開延期になっていた天海の主演映画『老後の資金がありません!』が、1年越しでようやくお目見えする。作品が公開を待つ間に、世の中は激変した。 「撮影中は、こんなことが待っているなんて思いもしませんでした。マスクもなしで、無邪気に大人数で触れ合えていたことが、こんなに貴重だったなんて……いろんな意味で、感慨深い作品になりました。身の回りの幸せって、追い求めるほどに遠くなっていくような気がします。振り返ったらそこにあったのに、っていう」 コロナ第一波のステイホーム期は、ちょうど撮影も終わった後で、自身の休みと重なった。 「家にいることが大好きなので、ステイホームはさほど苦ではなくて。でも、やっぱり誰とも会えないのは、ね。実家も都内なんですけど、行けないので、母には毎日電話してました。あとは、今回の映画でも共演した若村麻由美ちゃんとも夜な夜な電話で話しましたね。好きな時に人と会えるっていうことがどれほどありがたいか、身に染みました」
自分のことで精一杯で、気を遣えないんです
医師や刑事など、特殊な役柄を演じることも多いが、今回の映画では「老後の資金」と家族に振り回されるごく普通の主婦に扮した。貯金通帳にため息をつき、家族にモヤシ料理を供する姿は自然で、天海が演じるからこそのリアリティがある。スクリーンでは完全に平凡な主婦だが、インタビューで目の前にいる天海はやはり国民的スターだ。生活感をまったく感じさせない、名優のオーラを纏っていた。 「え、そうですか。生活感がない? いやいや、日常、ウロウロ歩いてる人いますよ。買い物だって自分でしますし。だって誰もやってくれないじゃない、一人なんだから(笑)」 一人暮らし歴は長い。「家族の暮らし」に憧れを抱くことはないのか。 「うーん。もちろん、家族の幸せってすごく大切だと思う。でも私は、一人で本当に良かった。申しわけないけど、心の底からそう思ってるから(笑)。だって、自分だけが気を付ければいいんですよ。家族がいる方は大変だと思う。夫、子ども、親のことを考えて、気を回して……。そんな愛情豊かな生き方は、私にはできないと思うんです。自分のことで精一杯で、気を遣えないんですよね。だから、誰かと一緒にいるよりは、一人がいい。たぶんペットも飼いません。責任が持てないから」