シュプリーム の栄光と挫折。ブランドにおける希少性と企業成長は相反してしまうのか?
シュプリームは名声を失ったのか?
かつてインディペンデントなブランドだったシュプリームは、過去10年間で何度も所有者が変わっている。2017年には、ブランドの株式の半数を5億ドル(約722.6億円)でカーライル・グループ(Carlyle Group)に売却。その後2020年に、21億ドル(約3035.1億円)でブランドを買収したVFコーポレーションの傘下に入る。そして今回、エシロールルックスオティカ(EssilorLuxottica)がシュプリームを15億ドル(約2179億円)の現金で買収することになった。買収は今年末までに完了する見込みだ。 今でもシュプリームには数百万人ものファンがおり、その多くが毎週木曜日の商品のドロップのためにシュプリームのWebサイトや店舗に集まり、FacebookやeBay、さらにはReddit(レディット)で自分たちのアイテムを販売している。 だが、同ブランドはここ数年で文化的な名声を失っている。その理由の大半は、VFコーポレーションのもとで商品があまりにも入手しやすくなったこと、企業的になりすぎて成長志向が過剰になったからだと、複数の情報筋が米モダンリテールに語っている。現在、一部の小売アナリストやコンサルタント、経営幹部は、「シュプリームが新しい所有者であるエシロールルックスオティカのもとで状況を好転させられるかどうかはわからない」と述べている。 「シュプリームは不安定な状態にあると思う」と、米モダンリテールに話すのは、ウィメンズストリートウェアプラットフォームであるスノベット(Snobette)の共同設立者、ロイス・サカニー氏だ。「トップラインとボトムラインを重視する企業に所有されている限り、シュプリームがあるべき姿に戻るのは難しいと思う。大口投資家に所有されてしまうと、本来の状態に戻すのは本当に困難なのだ」。
市場における過飽和
何十年ものあいだ、シュプリームはカウンターカルチャーの一角に存在するブランドとして知られていた。創業者のジェームズ・ジェビア氏は、30年前にニューヨークのノリータ地区にブランド1号店を作った。同氏はシュプリームを地元のスケーターやアーティスト、パンクやヒップホップのファンのためのホームとして構想していた。 その後、このブランドはジャスティン・ビーバー氏やヴィクトリア・ベッカム氏といったメインストリームのセレブリティに受け入れられるようになったが、シュプリームの魅力はその排他性にあった。特定の商品を決まった数量しか販売しないため、ファンはそれを手に入れるために毎週のように店に殺到。何年ものあいだ、人々は最新のスウェットシャツやスウェットパンツを確実に手に入れようと、何時間も前からシュプリームのニューヨークの店舗の前に列を作った。そしてすぐに全米や海外にあるシュプリームの他の16店舗でも同じように行列ができるようになった。なお、シュプリームの2号店は日本の代官山に1998年にオープンしている。 ところが、シュプリームのこうした排他的な雰囲気は、拠点が増えるにつれて薄れていく。2020年12月にVFコーポレーションがシュプリームを買収した際、2022年度の売上高を5億ドル(約724.5億円)と見込んでいたが、その目標を達成するには、ブランドの商品を多く生み出し、店舗をさらにオープンするという膨大な拡大が必要だったのだ。 VFコーポレーションにとってタイミングも悪かった。世界は新型コロナウイルスのパンデミックの真っ只中にあり、世界中のブランドが生き残りをかけて奔走していた。「VFコーポレーションは高値で(シュプリームを)買収し、ほかのすべてが縮小しているときに事業を拡大しようとした」と、eコマースオペレーティングシステムのスワップ(Swap)のチーフマーケティングオフィサー、フアン・ペレラノ氏は米モダンリテールに語っている。 コンサルティング会社スパーウィンクリバー(Spurwink River)の創業者であるマット・パウエル氏は米モダンリテールに対し、「VFコーポレーションのシュプリームの戦略はブランドの価値提案とずれていた」と話す。「VFはシュプリームにあれだけの金額を支払ったため、非常に迅速に売上を上げる必要があった。(だが)シュプリームやほかのストリートウェアブランドの大前提にあるのは、製品が入手困難である、ということだ。希少性と成長はまさに相反するものなのだ」。