マスク氏は、なぜトランプ支持なのか?◆EV補助廃止でも親密の謎―専門家に聞く【アメリカ大統領選挙2024】
◇AI、暗号資産、宇宙開発への規制緩和
大和総研経済調査部の矢作大祐主任研究員は、トランプ氏が企業向けに打ち出す政策スタンスの特徴として、人工知能(AI)や暗号資産、宇宙開発に関する規制緩和を挙げる。AIによる偽情報「ディープフェイク」や情報バイアスなどのリスクに対する法規制強化を目指す民主党・ハリス氏の姿勢とは対照的だ。 矢作氏は「規制緩和はマスク氏も含めて支持者からの要請という側面があるかもしれない。マスク氏はAIビジネスもやっている。IT関連の経営者は、本来は民主党支持者が多いが、民主党が『巨大IT企業憎し』と(言わんばかりに)、AIなどの規制に積極的ということで、一部のベンチャー経営者が離反してトランプ支持に回っている面はあるのではないか」と話す。 中西氏も「マスク氏は、宇宙や(自動運転の)ロボタクシーで新しい世界をつくろうとしている」とした上で、「データを集めてAIを駆使したロボタクシーを走らせEVの稼働率を高めるといった大きな世界観の中では、規制ガチガチの民主党より、トランプ氏のほうが、はるかに自分のやりたいことができると感じたのではないか」と推測した。 ◇エリート経営層の「本音と建て前」 ただ、マスク氏のようなIT関連企業の経営者が、全て共和党を支持しているわけではない。ニッセイ基礎研究所経済研究部の窪谷浩主任研究員は「IT企業の中でも(支援先は)ハリス氏とトランプ氏に分かれている」と指摘。気候変動対策などの面から石油関連企業などは比較的トランプ氏を支援しやすいが「トランプ氏の予見不可能な政策や外交での他国との関係性、人格面などで、経済界の評価は分かれている」と話す。トランプ氏の歯に衣(きぬ)着せぬ振る舞いは、グローバルに事業を展開する多国籍企業にとってはリスクと映り、「必ずしもトランプ支持で一枚岩という訳ではない」という。 もっとも、大和総研の矢作氏は「富裕層でエリートの大企業トップやIT経営者は、どちらかというと『増税もありうべし』と表向きは言ってバイデン氏(や民主党)を支持するが、よくよく話を聞くと、増税を避けて税率の低い州に引っ越すなど、本音ではトランプ支持という人もいるのではないか」と増税を嫌うエリート層の本音と建前を解説し、支持の実態は見えにくい。 ハリス氏は、「中間層」への支援を掲げ、法人増税や富裕層への課税強化を表明している。とりわけ、バイデン大統領が2025年度予算案で、1億ドル(約150億円)以上の純資産保有者について、株式などの含み益にあたる未実現利益と所得に少なくとも25%を課税する「富裕税」を打ち出したことは、投資家であるベンチャーキャピタルなども含めた超富裕層の支持先に「一定の影響を及ぼす」(株式市場関係者)とみられている。